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3. 調査研究の状況
3.1 バラスト水処理装置の型式承認試験方法の検討
3.1.1 MEPC52前の検討
3.1.1.1 G8オランダ原案の検討
 2004年3月に開催されたMEPC51において、MEPC52に向けての通信部会の取りまとめ国となったオランダから、2004年4月21日にG8原案が回章された。その構成は、次の通りである。
 
バラスト水処理システムの承認ガイドライン及び仕様
 
A部:序文、定義、役割及び責任
1 序文
総則
目的
適用
要件の概要
2 定義
2.1 バラスト水処理システム
2.2 バラスト水管理計画
2.3 バラスト水処理装置
2.4 活性物質
2.5 制御機器
2.6 モニター機器
2.7 試料採取設備あるいは機器
2.8 条約
2.9 製造者/供給者
2.10 定格処理容量
3 役割と責任(後日作成する。)
3.1 主管庁の役割
3.2 製造者の役割
3.3 船舶運航者あるいは船主の役割
3.4 試験機関の役割
3.5 分析機関の役割
3.6 責任 ー SOLAS第9章
B部 技術指針及び品質保証
4 技術指針
バラスト水処理装置
制御装置
監視装置
サンプリング装置
5 環境試験要件
試験仕様の詳細
振動試験
温度試験
湿度試験
電源の変動
傾斜試験
6 構成、保守、保安、較正及び訓練
7 品質管理
C部 装置の型式承認
8 候補要件及び試験前書類
9 テスト・ベッド試験
目的、制限及び評価の要件
試験設備
縮尺
試験のプロセジュア
試験デザイン
漲水及び排水要件
試験評価
10 陸上試験後の承認
11 船上試験
船上試験の目的
船上試験の概観
船上試験の要件
試料採取
12 船上試験後の承認
13 型式承認証明
バラスト水処理システムの型式承認書
D部 船上設置の承認手順(設置承認)
14 船上設置の図面承認要件
15 個々の設置の承認
16 設置検査
 
 このG8原案の内容を解析した結果は、オランダに次の我が国の一般意見として通知した。この我が国の意見は、MEPC52でのG8オランダ提案文書(MEPC52/2/5)に取り入れられた。
(1)G8原案に対する日本からの一般意見
1)テスト・ベッド試験(陸上試験)及び船上試験
 我々はほとんどの時間をC項(装置の型式承認)のテスト・ベッド試験の草案の討論に費やした。船上試験に関しては、もし、G8で科学的に立証される詳細なテスト・ベッド試験を要求する場合には、簡易な船上試験で十分であると考える。また、船上試験には、オランダ提案文書で指摘しているように、実施上及び科学的な面で利点と不利益があり、G8での実施には討議すべきいくつかの重要な事柄が存在する。
 船上試験に関する日本の意見は、(1)船上での水生生物の試験は、科学的な正確性及び実行性(費用と時間)の面で、その困難さと比較すると限られた価値しか持たない。(2)しかし、我々は、メンバー国のほとんどが困難性にも拘らず船上試験が必要と考えるのであれば、その実施に、それほど固執しない。(3)我々は、可及的速やかに処理装置の型式承認試験の実施することが一番重要と考えることである。
 次は船上試験に関する追加意見である:
a. 水生生物の生死の判断は、船上の環境で利用可能な分析装置が限定されことを考慮すると困難であろう。現時点では、バラスト水処理装置で処理される水生生物の生死判定などの生物学的特性の判断は、技術者による顕微鏡観察が必要であり、この作業を代替する標準化された機器は存在しない。
b. つまり、科学的正確さで評価に必要なデータを得るためには、処理の有効性、信頼性及び安全性の面で、長時間に渡る実験観察が基本的に必要となる。
c. 船上試験と船上での最初の装置の作動試験は、明確に区別せねばならない。もし、G8で船舶の大きさ等の影響を詳細に評価する必要があるとした場合には、上記したような困難な試験を、種々の型式及びサイズの船舶を対象に、数多くの機会で実施する必要が生じる。
2)テスト・ベッド試験(陸上試験)に関する意見
a. 1.9.4に対する意見
 規則D-2の性能基準がバクテリアに対する処理効果を求める内容となったため、現在開発中の多くのシステムは、複合技術の採用を検討している。処理回数も複数となる場合が多い。よって、処理の有効性の評価は、最終出口(排出点)で測定することが適切であると考える。
 また、処理効果の評価の科学的精度を保つ為には、十分な量の処理された試験水が分析の為に採取されなければならない。この目的のため、最初の(処理前)、中間の(保管)及び接続する配管の数及びサイズは、各々の処理システムの構成に従い修正されねばならない。しかしながら、最も重要なのは、処理工程後で十分な量の水が確保されることにある。従って、我々はタンクのサイズを統一する規定することは適切でないと考えた。それは試験前の書類の設計で決定されるべき事項である。
 G8原案で提案された125m3のような大型タンクに代り、複数のより小型のタンクの使用を優先することを提案する。その理由は、実験の現実性を優先するからである。テスト・ベッド試験のために、大量の生物(野生ないしは培養のいづれか)を用意することは非常に難しい。特に、きわめて多い生物の数(107ind/m3,103ind/ml)の下で、大型タンク用に十分な量の生物を準備するための技術と必要経費は想像を絶する。テスト・ベッド試験を行うためには、大型のタンクに、これら水生生物を満たす方法ではなく、処理効果の分析に十分な代表的サンプルを収集するために、短時間でスパイク状に注入するやり方で、試験用の水生生物を追加することを希望する。もしG8が、後者の方法を取るのであれば、幾つかの1から4m3のタンクを準備する必要がある。その一つは、各々のサンプリング時間(9.24に参照されている1、3、7、及び14日)でのサンプル分析に使用される。
b. 9.8に対する意見
 9.8項はインライン処理にのみ言及しており、タンク内処理に触れられていないため、仮決定とすべきである。
c. 9.11及び9.15に示唆されている生物の最高度の濃度に関する意見
 この項で示されている濃度の選択の正当な理由を提供するために、自然の極限状態での最も多い個体数について合意する必要がある。日本は、日本沿岸の水の2つのサイズ範囲、即ち10-50um及び50um未満の最も高い生物濃度の資料を提供するため、MEPC52に対し提案文書を準備中である。解析結果から、50um未満の生物の最も多い極限状態は、107ind/m3である。
 生物のサイズの従来の測定方法では、幾つかの大型プランクトンの種類は、50um未満の範囲に収まっている。しかしながら、規則D-2における最小のサイズの新しい規定に従うと、日本は多くの種類が10-50umのより小さい範囲に移る事を発見した。現在我々は、新規規定を使用してプランクトン濃度の資料を検討しているが、今までの解析結果では107ind/m3は正当な数字であることを示していた。また、10-50umの範囲では、多くの種類が新規規定を採用すると10um未満に落ちることが明らかになった。その結果、この範囲の極限状態の生物の数は103から104ind/mlとなる。なお、この範囲の中で小さい約10umの種類が増殖したときは、104に達する。一方、約50umの大型のものが出現したときは、その個体の数は102-1003ind/mlとなった。そして、10umの個体の体積は50umの生物より100倍(5x5x5)以上少ない。したがって、102-104ind/mlのような差を設けて最高濃度を設定するのが正当であると考える。また、最小サイズが20-40umの試験生物(9.15参照)の数を考慮すると、我々は103ind/mlを最初の試験生物濃度として捕らえることが良策と考える。
 生物を含む数トンの試験水を作ることは現実的に可能である。しかし、100トン以上の試験水を準備することは、現実的に非常に困難である。
 水中環境での多くの生物は、浮力を増すために集団を形成する。最小サイズが10umより小さいある生物は、数100umより大きな集団を形成する。もし、我々が厳密に生物の最小サイズの規定を採用すると、10umより小さい生物は範疇外となり、それから生物の集団は、計測の対象から外れる。この問題を解決する方法は、構成する生物の数に関係なく集団の数を数えることである。しかし、処理工程の間で集団は容易に破壊され数は増加する。これがジレンマである。しかし、日本は集団の数で数えることを提案する。
d. 9.13に対する意見
 微粒子の有機物質量(POM)は、測定できない。よって、測定可能な微粒子有機炭素(POC)と規定するのが良い。
 鉱物も規定が非常に困難である。それは浮遊個体ないしはほかの測定容易なパラメーターに置き換えても良い。もし鉱物濃度の測定が必要な場合は、より正確で固有の定義が測定方法と共に提供されねばならない。
 日本はDOC(溶存有機炭素)及びPOC(粒子状有機物質に変わり粒子状炭素)の濃度水準は、必ずしも高い必要はないと考える。何故ならば1mg/l付近のDOC及びPOC値は、日本の水では正常ないし高い値であるためである。我々は8-12mg/lのDOC及びPOCの水は発見できなかった。当然のことながら極限の濃度に試験用の生物を追加すれば生死を問わない生物を含むPOCは高くなる。しかし、そのような状態は、1mg/l以上の要求を満たすことが可能となる。もし、我々がDOC及びPOCを増やす必要がある場合には、我々はDOCに対してはある溶存可能な有機成分を、またPOCに対しては非溶存の有機成分をこれらの成分が環境に受けられるという前提で規定せねばならない。
e. 9.15に対する意見
 試験用生物(指標)の選択に対しは、次の幾つかの採用基準がある。
(1)大量の試験に使用する為に、試験水での培養及び保管が容易。
(2)自然の環境(野生)で世界中であるいは商業的に入手可能。
(3)裸眼ないしは顕微鏡で水中の個体を数えることが容易。
(4)幾つかの基準(9.34参照)により生死の状態を決定することが容易。
(5)生物のサイズの最小サイズが50um以上ないしは10-50umのいずれかの範囲になければならない。
 これらの基準より、我々は試験用生物の良い見本として、9.18のリストにある生物を選択した。生物は、入手可能であることの他に、比較及び特定の環境及び化学品に特別な抵抗がないことを確認した後に採用されるべきである。
f. 9.15及び9.18に表示されている試験用バクテリア
 Vibrio choleraeのような病原性バクテリアをテスト・ベッド試験の試験用生物として使用することは、あまりに危険を伴うため、日本は最終的な効果を確認するための別の試験を採択することが必要と考える。別の試験は、2つの部分から構成される:
(1)102cfu per milliliterの水準までに、処理前の試験水中の104cfu per milliliter以上の従属栄養バクテリアを殺滅させること。この処理前試験水中の104cfu per milliliterのバクテリアは、海水及び清水の両方の自然環境で普通に観察される。したがって、いかなる培養バクテリアを加える必要はなくなる。この方法で、通常バクテリアに対する処理効果を確認する。
(2)規則D-2に記載されている基準値よりも少ない指標病原性のバクテリアの不在の確認。適切な免疫方法を考慮して、D-2の指標病原性バクテリアの代理となるバクテリアを使用可能にする。Escherichia coliの代りにColiform、Enterococcus の代わりにEnterococcus group 及びVibrio cholerae(01及び0139)の代わりにVibrio choleraeの全てのクローンを使用可能にすることを提案する。
 方法の詳細は、日本からMEPC52に提出される文書の中に記載される。
g. 9.20に対する意見
 試験用の生物を他の地域導入することを検討した場合には、検疫を目的とする主管庁の規定及び生物学上の多様性に関する条約に従う必要がある。後者の事項は注目に値するが、ほとんどの国はArtemia Salinaのような試験用の生物の地方特有の在庫を保有していないことを考慮すると、ガイドラインによる規定は厳格であるべきではない。
 この本文の中では、我々は「もしも指標生物が野生、培養物を問わず地域特有の種類でなければ生物学上の多様性に関する条約に関連する規程は遵守されねばならない。」の追加を希望する。
h. 9.24に対する意見
 処理された試験水は、未処理の試験水(実験のコントロール)と併せ、保管用のタンクでの生物の数の変化を観察する為に、14日間別のタンクで保管されねばならない。数の観察は、処理後の0(処理終了直後)、1、3、7及び14日後に実行されねばならない。これらのサンプルは、特に当日のサンプリングに割り当てられた大容量のタンク、あるいは幾つかの小型タンクより取得可能である。後者の方法では、少なくとも8個の小型タンクが必要である。すなわち処理後の一日分として2タンク、1つは処理した水用、もう1つはコントロール用に必要である。同じ準備が3、7及び14日の保管用のサンプルに必要である。
 大容量のタンクを使用する場合は、2タンク、1つは試験水用、もう1つはコントロールの水用を最低14日間保存されねばならない。サンプルは2つのタンクから1、3、7及び14日に収集されねばならない。
i. 9.33-9.36(サンプル分析)に対する意見
 日本は、現在MEPC52に提出する分析方法に関する情報を準備中である。文書にはサンプル準備及び生死状態の判断を含む生存種類の計測の詳しい方法論が記されている。
 生物の生死の状態は、9.35に記載されている3つの基準により判断せねばならない。主な基準は形と運動性である。この基準は小型顕微鏡により判断され、いかなる種類にも適用が容易である。生存生物ないしは死亡した生物を幾つかの染色により着色することが提案されたが、それらのほとんど全ては、着色能力は限定された範囲しか持っていない。それは、ある染色はセルロイド系の皮膜を有している水生植物を着色可能だが、それを持たないものは着色できないため、使用性が制限される。さらに、処理により死亡したり傷から回復する過渡期にある生物は、ごく僅かにしか着色されず、生死を判断することは困難である。
 規則D-2は、ある一定量の水の中で非常に少ない数の生物しか認めないため、ある個体の生死の判定は結果の全体を左右しかねない。我々は、生死の区別の段階のための基準、及びガイドラインを設定するのに十分な注意を払わねばならないと考えている。
j. 9.34の生死判断の方法の一つとしての再培用実験に対する意見
 生物の生死を判断する重要な方法の一つが、再培養実験である。個々の生物の生死を判定するのに適用される。例えば、ある卵の生存を判断する為に、卵を制御された条件の下で培養することは価値がある。したがって、この方法では、問題の一つの生物を顕微鏡試験のサンプルより単離する作業を行う。これは簡単な作業ではなく、特に問題の生物の数が増える場合には困難である。しかし、日本は、この方法は、生物の生死の判定の為にいくつかの方法の組み合わせを使用しなければならないと考えるため、有益な方法の一つと考える。
k. 9.35(生存するバクテリアの分析)に対する意見
 日本は、現在MEPC52への提出するために、分析方法に関する文書を準備している。我々は多くの似たバクテリアが存在するため、培地及びバクテリアを明確に区別する培養条件を記載する必要がある。我々は広く受け入れられている幾つかのISOのガイドラインを採用することを尽力する。







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