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3.1.1.2 テスト・ベッド試験(陸上試験)の試験・分析方法に関する日本提案文書の検討
 G8原案の現在の構成では、テスト・ベッド試験においてバラスト水処理装置の性能を正確に評価する試験・分析方法を挿入することが不可能であることが明らかになった。そこで、我が国としては、実効性のあるガイドラインの早期締結を望む立場から、現実的かつ実効性の高い試験・分析方法に関する次の提案文書を作成し、G8の付録に収録されることを要望することとした。また、提案内容を周知するために、MEPC52でのプレゼンテーションを行うこととした。
(1)テスト・ベッド試験に使用されるバクテリアの定量的分析方法(MEPC52/2/7、巻末資料集に収録)
(2)テスト・ベッド試験に使用される生物の定量的分析方法(MEPC52/2/8、巻末資料集に収録)
(3)テストベッド試験のための試験水中の指標生物の最少濃度(MEPC52/2/9、巻末資料集に収録)
3.1.2.1 提案の主旨
(1)現在のG8草案は、書類審査、陸上試験、船上試験で構成されているが、我が国としては、船上試験は必ずしも必要としない立場である。
(2)G8の早期成立のため、及びバラスト水処理技術の開発促進のためには、テストベッド・試験(陸上試験)内容が実施可能でかつ具体的に記載される必要がある。
(3)テストベッド・試験方法を実施可能でかつ具体的に内容にするためには、試験流入水中の最少生物濃度、及び生物(50um以上及び50um未満10um以上)とバクテリアの定量的な分析方法を定めることが最重要な課題である。
3.1.2.2 各提案内容の骨子
(1)テスト・ベッド試験に使用されるバクテリアの定量的分析方法(MEPC52/2/7、巻末資料集に収録)の骨子
(1)G8には、テスト・ベッド試験で行われるバクテリアの量的分析方法が不可欠である。
(2)条約の規則D-2はバラスト水排出の指標病原バクテリアの最大許容数を規定している。よって、処理装置はこれらのバクテリアを減少させてD-2の基準値以下にしなければならず、G8の試験はこれらバクテリアに対する性能を正確に評価できる方法でなければならない。
(3)D-2に規定されている指標病原バクテリアを含め、試験水に病原バクテリアを使用することは推奨しない。また、定量的分析に特定病原種を使用することも推奨しない。その理由は、分析に長時間費やされることと、人体の健康及び公衆衛生を守る特別な施設が必要とされるためである。
(4)試験は、次の項目で評価する。
・一般的なバクテリアに対する処理性能の評価のために、104CFU per ml 以上の試験流入水中の従属栄養バクテリアが処理直後に102CFUper ml以下になっているかを確認する。
・D-2に規定されている指標病原バクテリアに対する処理性能の評価のために、処理後の排出時に指標病原バクテリアの代用バクテリアがD-2基準以下であることを確認する。
(5)使用される従属栄養バクテリアは、海洋及び清水に一般的に分布するバクテリアを用いることとし、バクテリアを培養し添加することは行わない。
(6)代用バクテリアは、病原バクテリアを含む次のバクテリアのグループとする。この代用バクテリアの採用により、定量的分析は時間も費用も節約できる。
・Escherichiaの代用バクテリアは、Coliform。
・Enterococcusの代用バクテリアは、Enterococcusグループ。
Vibrio cholerae O1、O139の代用バクテリアは、Vibrio choleraeの全てのクローンとする。
(7)G8には、次の内容も含まれるべきであり、本提案では具体的に記載する。
・試験水のサンプリング方法
・従属栄養バクテリア及び代用バクテリアの量的分析方法
(2)テスト・ベッド試験に使用される生物の定量的分析方法(MEPC52/2/8、巻末資料集に収録)の骨子
(1)G8には、L size group(50um以上の水生生物)及びS size group(50um未満10um以上の水生生物)に関して、バラスト水処理装置で処理されて排出される時に、D-2基準を満たしているかどうかを確認するためのサンプリング方法と生物の定量的な分析方法が不可欠である。
(2)サンプリング方法
・採水量は、D-2基準の単位を考慮して、L size groupは1m3以上、S size groupは1L以上。
・サンプル濃縮方法は、L size groupは目合い50umのcloth net、S size groupは50umのcloth netを通過したサンプルを対象に目合い10umのcloth netを使って生物に損傷を与えないようにゆっくり濃縮。濃縮率は、生物のviabilityに影響を与えないように生物量を見ながら適切に判断する(システムによっても異なる)。濃縮水は、GF/Fフィルターを使って作成したろ過水で、広口ビーカー等に移す。顕微鏡観察時には、広口ビーカー等から観察可能なチャンバーに濃縮水を移すが、この時の量も生物のviabilityに影響しないようにする。
(3)計数方法
・.viableなL size group及びS size groupを計数する。
・minimum dimensionを考慮して計数する。
・サンプル中で分裂や増殖が起きないように、短時間(採水後、1日以内)で分析する。
・顕微鏡観察では、低温で保存し、化学薬品等による固定はしない。
(4)生物のviability
・criteriaは、形態変化(体の損傷、鞭毛消失、色素変化)、運動性(泳いでいるか否か)、染色法による判断(方法は報告義務)、最適条件下での培養による再成長試験(個体や運動性の再生、増殖)。
・分析は、これら4 criteriaのうち2つを用いて行う。(生物のグループによって、適切な方法が異なる。)
処理システムとの対応例:
・ろ過:形態変化、運動性、染色法のうち2つ
・スペシャルパイプ:形態変化、運動性、再成長試験、染色法のうち2つ
・化学処理:運動性、再成長試験、染色法のうち2つ
・複合処理(ろ過+UV):形態変化、運動性、再成長試験、染色法のうち2つ
(5)生物のminimum dimension
・minimum dimensionは、生物の長さ、幅、厚さの最小サイズで決める。
・minimum dimensionによって、L size groupとS size groupあるいは計数対象外の区分が決まる。
・これらサイズ区分は、ろ過・濃縮作業の段階で多くが決まる。しかし、S size groupが目合い50um、対象外が目合い10umのメッシュで捕集される場合がある。
・もし、このような生物が存在する場合には、minimum dimensionの計測によって、区分を決める。
・方法としては、予め種類のminimum dimension表を作成して計数するのが有効である。
(6)群体の取扱
a. 群体を形成している場合は、群体を計数1単位とする。
b. サイズ区分は、群体のminimum dimensionを用いる。
(3)テストベッド試験のための試験水中の指標生物の最少濃度(MEPC52/2/9、巻末資料集に収録)
(1)テストベッド試験における試験流入水(処理前の試験水)は、自然状況下における厳しい条件で正確な性能試験を実施し、実際の航海において確実に規則D-2の性能基準をクリアーすることを保証するために、自然水域における著しい高濃度状態を基に設定する。この試験流入水のコンセプトは、MEPC51で合意されている。また、加えて、試験が実施可能な生物濃度とする。
(2)最少生物濃度設定方法
・使用データ
 最少生物濃度の設定は、富栄養化水域で水生生物量が多く、バラスト水が漲水されることが多い横浜港、東京港、東京港が位置する東京湾奥部における赤潮モニタリング調査データ(プランクトン組成データ)を用いて行った。データ数は320である。
・解析方法
 東京湾のデータから、規則D-2で規定されている50um以上(以下、L size group)と50um未満10um以上(以下、S size group)の2サイズ区分の生物濃度を再算出するために、次の手順で解析を行った。
Step 1
・文献より出現種の長さ、幅、厚さを調べた。
・各出現種の長さ、幅、厚さの中央値の中で、最も小さい値をそれぞれのminimum dimensionとした。
・それら各出現種のminimum dimensionを基に、各出現種をL size group、S size group、それに計算対象外の10um未満に区分した。
・東京湾のオリジナルデータをL size group及び S size groupに再区分して、3ヶ月毎に集計した。
Step 2
・群体を形成する植物プランクトンの種類(ほとんどS size group)に関しては、群体を1個体として計数できる。しかし、東京湾のデータは群体ではなく群体を構成する1生物単位で集計している。また、通常、群体は10〜100個の生物で構成されている。よって、東京湾のデータのS size groupの濃度は、10〜100個少なく見積もる方が適切である。
・S size groupが形成する自然水域における著しく高い生物濃度状態では、栄養塩類の枯渇等で生物サイズが小型化する。一方、人工培養の場合は、そのような小型化が起こらない。よって、自然水域における著しく高い生物濃度状態を試験流入水の条件として人工的に培養するのは困難かもしれず、1/10程度少ない方が現実的である。
(3)最少生物濃度
 解析の結果、東京湾における高濃度状態はL size groupが107/m3、S size groupが104/mlとなった。しかし、S size groupについては、上記の理由により1オーダー少ない値を提案する。よって、日本が提案する試験流入水の最少生物濃度は、L size groupが107/m3、S size groupが103/mlとする。
 3.1.2に示したMEPC52での我が国提案文書は、G8において極めて重要な内容であるが、一方では、水生生物学的な専門分野であり、海事関係者に内容を周知するためには、議場でのプレゼンテーションを行うことが適切であると考えられた。よって、MEPC52の開催初日である10月21日にプレゼンテーションを行った。以下には、その内容を収録する。
 
 
 
 







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