4.4 損傷破口からの浸水速度計測実験
4.4.1 緒言
前節までで,110,000総トンの巨大クルーズ客船を対象とした2次元模型および3次元模型を用いた水槽試験により,浸水中間段階において大横傾斜が発生する可能性があることを確認し,その発生メカニズムを明らかにした2)。しかし,これら縮尺の異なる模型での実験結果を詳細に比較すると,大横傾斜が発生する条件およびその最大横傾斜角度はよく似ているものの,その発生時刻がフルード相似則には従わず,大きく異なる場合があることがわかった。一方,これら実験結果を用いて,海上技術安全研究所で開発された浸水中間段階船体運動シミュレーションプログラムの計算との比較が行われたが1),図4.4-1に示す比較結果の一例からもわかるように,両者の比較においては,最大横傾斜時の角度およびその発生時刻はよく合うものの,大傾斜角発生後の運動速度および最終平衡角には差異が見られる場合があることが明らかとなった。これらの主な原因としては,損傷破口からの浸水流入速度や船体内部水の挙動が縮尺影響を受けること,シミュレーションにおいては推定精度が十分ではないことが考えられる。
そこで,ここでは損傷破口からの浸水流入速度に注目し,簡便な模型試験を行い,その特性について調査した結果について報告する。
図4.4-1 Example of simulated and experimental results of the roll motion.1)
4.4.2 実験概要
図4.4-2に実験概要図を示す。アクリルで作成した透明な直方体の側壁に,長方形の破口(流入口)がある模型を,検力計で完全に拘束する。あらかじめアルミテープ塞がれた破口から,すばやくテープを剥がし,水を流入させる。このとき直方体に働く下向きの力を計測し,内部水面の上昇量および破口からの浸水流入速度を算出した。
図4.4-3に模型の詳細を示す。図中の寸法は模型の内寸であり,黒い部分は破口である。なお,流入速度の尺度影響を調べるために大小2種類の模型を作成した。
図4.4-2 Schematic view of experiment.
図4.4-3 Models used in experiments.
破口の位置は,図4.4-4に示すように(a)破口の高さ中心が喫水線上にある場合と(b)破口が完全に水面下にある場合とした。なお,破口が完全に水面下にある場合は,模型内の空気の流出量が,水の流入速度に影響を与えることが考えられる。(b-1)十分に模型内の空気が流出できる,(b-2)少しずつ模型内から空気が流出する(空気孔/面積破口面積=1/25),(b-3)模型内から空気は流出しない,の3ケースとした。
図4.4-4 Experimental conditions.
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