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4.3 3次元模型船を用いた損傷時浸水中間段階の船体運動計測実験
4.3.1 緒言
 4.2節では,2次元模型を用いた,損傷時浸水中間段階における船体運動について詳細な実験を行い,大横傾斜が発生する可能性があることを確認し,その発生原因を明らかにした。しかしながら,船体中央部のみを切り出して製作した2次元模型では,実際の船体と船首および船尾の形状が著しく異なることにより,横および縦復原力特性や浸水時沈下量を厳密には等しくできないなどの問題がある。
 そこで,ここでは3次元模型(縮尺1/125)を用いて,特に2次元模型を用いた実験で観られた浸水中間段階での代表的な運動を対象に,2次元模型と同じ実験状態で同様の実験を実施し,2次元模型の実験結果と比較検討した結果について報告する。
 
 
4.3.2 模型船および実験概要
 
 対象とする船は,表4.2-1で示した11万総トン級の大型クルーズ客船である。ここでは,縮尺が125.32分の3次元模型を制作した。図4.3-1および表4.3-1に,模型船の船体横断面図および主要目を示す。
 
図4.3-1 Body plan of 3-D model
 
表4.3-1 Principle particulars of model.
scale 1/125.32
LOA 2.200m
Lpp 1.933m
Breadth 0.287m
Draft 0.067m
Displacement 24.31 kgf
GM 1.642×10-2m
Ts 1.93sec
 
 模型内部の区画割りを図4.3-2に示す。模型は船長方向に5つの区画を持っており,これらはそれぞれ水密となっている。鉛直方向には,2重底と3層のデッキ(DK1〜DK3)があり,DK3の天井がBHDである。なお,BHDには,換気管等を見立てた小さな空気孔を設けておりDK3で空気がトラップされないように工夫すると共に,DK2およびDK1についても各デッキで空気がトラップされないように空気のみが行き来できる換気管を作成した。また,DK1およびDK2の床には階段室があり,この階段室を通して各デッキ(DK1〜DK3)間を水および空気が上下行き来できる状態となっている。
 
図4.3-2 Schematic view of 3-D model.
(拡大画面:5KB)
 
 各区画内の各デッキには,4.2節の図4.2-5に示している船員室(Crew Cabin)スペースおよびボイドスペースを,スケールを合わせて作成した。船員室スペースの各室の壁と天井の間には,隙間を設けて水が移動できるようになっている。2次元模型を用いた実験同様,DK1は全てボイドスペース,DK3は全て船員室とし,DK2はボイドスペースと船員室を組み合わせた配置とした。
 実験は,図4.3-2に示す(3),(4)区画への浸水を想定した2区画浸水について行った。本実験においてもこの2区画が100%水で満たされた場合でも船体は沈没することは無い。
 損傷口長さは,SOLAS条約の最大長さである84mmとし,船長方向の前後位置は,(3),(4)区画の中央とした。実験では,損傷口の高さ,損傷口の鉛直方向位置を図4.2-6に示すように変化させた。損傷口幅はスケールに合わせて,smallのときは8mm,largeのときは24mm,very largeのときは42mmとした。表4.3-2に全実験ケースをまとめて示す。
 実験においては,模型船の側壁に空けた損傷口をテープで完全に塞いでおき,静水中で静止している船体からテープを静かに剥がし,船体内部へ浸水させた。船体の運動は,上下揺れ,縦揺れ,横揺れ,左右揺れが自由であり,浸水最終状態に至るまでの横傾斜角,沈下量,縦傾斜角を計測した。
 
表4.3-2 Experimental conditions.
case opening under BHD internal arrangement on DK2 initial heel
1 large high v-v 0deg.
2 large high v-v 1deg.
3 small low c.c.-v 0deg.
4 small middle c.c.-v 0deg.
5 small high c.c.-v 0deg.
6 large high c.c.-v 0deg.
7 very large c.c.(with doors)-v 0deg.
 
4.3.3 実験結果
 
4.3.3.1 2次元模型を用いた実験との比較
 表4.3-2に示したCase 1における実験結果を図4.3-3に示す。同図中に,2次元模型での同条件における実験結果を,フルード相似則に従って3次元船模型のスケールに合わせて示す。2次元模型においては損傷口が上がる結果が得られたが,3次元模型においても同様に損傷口が上がる結果が得られた。しかし,浸水最終段階での横傾斜の平衡角度が異なる結果となった。この原因は,2次元模型の沈下量が3次元模型の場合に比べて大きく,その分模型内に多く浸水したためだと考えられる。また,最終段階に至る時刻は2次元模型に比べて3次元模型の方が長くなる結果が得られた。これは,損傷口が小さいために,表面張力等によって浸水速度が遅くなった可能性が考えられる。
 
図4.3-3 Measured roll and heave motions (Case 1).
(拡大画面:8KB)
 
 Case 2における実験結果を図4.3-4に示す。3次元模型の最大横傾斜角は,2次元模型の結果に比べて小さくなる結果が得られた。これは,3次元模型の非損傷時GMが,2次元模型に比べて大きいためだと考えられる。また,3次元模型の最大横傾斜角発生時刻および最終状態到達時刻が2次元模型の場合に比べて若干長くなっていることがわかる。これは,Case 1同様,浸水速度が遅いためだと考えられる。
 
図4.3-4 Measured roll and heave motions(Case 2).
(拡大画面:8KB)







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