4.2.3 実験結果
4.2.3.1 BHDの空気孔の影響
BHDは水密ではあるが,下部区画から通気パイプをはじめとした各種パイプ等が上がっていて,空気は抜ける様になっている。こうした空気流が浸水に及ぼす影響についての研究例は少なく,Palazziらの研究5)がある程度である。
まず,BHDの空気孔の影響を調べるために,BHDが完全空気密の場合,小さな空気孔がある場合,大きな空気孔がある場合の3ケースの実験を行なった。
結果を図4.2-7に示す。空気孔がない場合には,BHDの下に空気が拘束されるため,浸水速度も非常に遅く,浸水が進むと共に横傾斜は大きくなり,浸水最終段階になっても大きな横傾斜をしたままとなる。しかし,空気孔が存在するとBHD下に空気が閉じ込められる量は少なくなり,浸水中間段階で一時的に大きく横揺れはするものの,浸水最終段階においては4度程度の傾斜にまで回復している。
この結果から,損傷船の浸水模型実験において,空気孔の存在が浸水中間段階および最終段階のいずれにも大きな影響を及ぼすことが確認された。模型実験においては,実船の水密区画からの排気系を正確にモデル化して模型船を製作することが必要となる。
図4.2-7 Effect of air flow on behavior of flooding ship.
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4.2.3.2 BHD上に水密上部構造物がある場合
まずBHD上の上部構造に損傷がない場合,すなわちBHD上には浸水がない場合の実験結果のうち,典型的な時系列データを図4.2-8〜11に示す。
図4.2-8は,浸水開始後に損傷口を水面下に沈める方向に大傾斜した後,徐々に直立状態に戻りながら最終的な釣り合い姿勢に到達する場合の,典型的な横揺れおよび上下揺れの時系列データである。浸水開始後の小さなピークは浸水する水による動的な影響と思われる。その後,比較的ゆっくりとした速度で横傾斜が増加し,約150秒付近で最大となった後,次第に横傾斜角が減少し,最終的には4度程度に収束している。
図4.2-9には,ほぼ直立の状態で浸水を続けて最終的な釣り合い姿勢に到達する場合の時系列データを示す。このケースでは,損傷破口は最も低い位置にあり,下のデッキから次第に上のデッキに浸水が進む場合で,浸水した水により重心が低下することから,浸水によって復原力が増加し,非常に安定した状態のまま浸水最終状態に到達する。
図4.2-8 Measured roll and heave motions (Case 8).
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図4.2-9 Measured roll and heave motions (Case 1).
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図4.2-10は,浸水開始後,損傷破口を上げる方向に横揺れし,破口が水面上に出て,浸水が止まる場合の典型的な時系列データであり,表3,4に示すケースのうち2,3,4,5,11,12がこのタイプであった。これは,浸水開始時に破口と反対舷に定傾斜が存在する,あるいは浸水した水が破口と反対舷に流れて船体が反対舷に傾斜する場合に多く見られる。この結果は,衝突して損傷した場合の処置として,損傷破口と反対舷の傾斜を何らかの方法で与えることが浸水を小規模に留めることに効果があることを示唆している。
図4.2-11は,図4.2-6に示す破口のうち(e)に示す非常に大きな損傷の場合の結果を示す。大きな破口から急激に流れ込む水によって,損傷破口と反対舷に10度程度傾斜するが,その後すぐに直立状態に戻り,浸水最終段階ではほぼ直立している。この実験データから,必ずしも大きな破口の場合に浸水中間段階での危険性が大きいわけではないことが判る。
図4.2-10 Measured roll and heave motions (Case 11).
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図4.2-11 Measured roll and heave motions (Case 14).
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計測した時系列データを基に,全ての実験状態(空気穴なしは除く)について大横傾斜の発生の有無,大傾斜発生時の最大横傾斜角および発生時刻を整理した結果が表4.2-4である。同表より,損傷口の鉛直方向位置が比較的高い時のケース(Case 7〜10, 13)でのみ,浸水中間段階に大横傾斜が起こることが分かる。最大横傾斜角は,何れも15.5°〜17.5°とほぼ一定であるが,損傷破口の面積,最大横傾斜角が発生するまでの時間は,区画内のアレンジメントおよび初期傾斜角の違いによって異なり,特に区画内のアレンジメントの影響が大きい。
また,供試船では,非損傷状態で約9度の横傾斜でBHD端が没水する。すなわち,中間段階で大傾斜をする場合に,BHD上の上部構造にも損傷があれば,BHD上にも浸水が広がる可能性があることを示している。
表4.2-4 Experimental conditions and results.
case |
opening size/height |
internal arrangement on DK2 |
initial heel |
large roll motion |
maximum roll angle [deg] |
time to maximum roll angle [sec.] |
1 |
small/low |
c.c.(without doors)-v |
0deg. |
× |
- |
- |
2 |
small/middle |
c.c.(without doors)-v |
0deg. |
× |
- |
- |
3 |
small/middle |
v-c.c.(without doors) |
0deg. |
× |
- |
- |
7 |
small/high |
c.c.(with doors)-v |
0deg. |
○ |
15.5 |
130.4 |
8 |
small/high |
c.c.(with doors)-v |
0deg. |
○ |
16.2, 16.9 |
150.8, 146.5 |
9 |
large/high |
c.c.(with doors)-v |
0deg. |
○ |
16.5 |
126.9 |
10 |
large/high |
c.c.(with doors)-v |
2deg. |
○ |
17.5 |
108.0 |
11 |
large/high |
c.c.(with doors)-v |
-2deg. |
× |
- |
- |
12 |
large/high |
v-v |
0deg. |
× |
- |
- |
13 |
large/high |
v-v |
2deg. |
○ |
17.1, 16.9 |
35.6 |
14 |
very large |
c.c.(with doors)-v |
0deg. |
× |
- |
- |
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