模型内部の区画割りおよびそのサイズを図4.2-4に示す。模型は船長方向に5つの区画を持っており，これらはそれぞれ水密となっている。鉛直方向には，2重底と3層のデッキ（DK1〜DK3）があり，DK3の天井がバルクヘッドデッキ（以下BHDと記す）である。なお，BHDには，換気管等を見立てた小さな空気孔を設けているが，空気孔の影響を調べるため，BHDを完全水密とした場合，および空気孔の大きさを変えた場合についても実験を行なっている。DK1およびDK2の床には階段室があり，3層のデッキ（DK1〜DK3）間の水の上下方向への移動が可能となっている。

　

　

　各区画内の各デッキには，図4.2-5（a）（b）に示すような船員室（Crew Cabin）スペースおよびボイドスペースを想定した。同図中の斜線部分は階段室位置を示しており，この部分にはデッキに穴が開いている。図4.2-5（a）の船員室スペースには，全船員居室を厳密に作成しており，各室のドアおよび壁と天井の間には隙間を設けて水が移動できるようになっている。なお，同図中の各客室ドア部は破線で示してあり，ドアが浸水による水圧で破損する場合があることなどを考慮して，1）ドア部に空気孔を模擬した穴を開けた状態と2）ドア部の壁が無い状態の2通りの内部模型を作成した。

　DK1は全てボイドスペース，DK3は全て船員室とし，DK2はボイドスペースと船員室スペースを組み合わせた配置とした。

　

　

　実験は，図4.2-4に示す（3），（4）区画への浸水を想定した2区画浸水について行った。この（3），（4）の2区画が100%水で満たされた場合でも船体は沈没することは無い。

　損傷口長さは，SOLAS条約の最大長さである210mm（SOLAS条約II-1章8.4; min{0.03L+3.0, 11.0m}）とし，船長方向の前後位置は，（3），（4）区画の中央とした。実験では，損傷口の高さ，損傷口の鉛直方向位置を図4.2-6に示すように変化させた他，BHDの空気穴の大きさ（50mm2, 900mm2），船員室のドアの有無，初期傾斜角，BHD上の構造物の有無およびデッキ上の横隔壁の有無，を変化させた。なお，BHDの空気穴は，BHD上部から下部へ浸水が進まないように作成している。

　

　

　

　

　

　

　ここで，BHDより上の上部構造物について説明をする。SOLASの決定論に基づく規則では，BHDより上の上部構造物は，復原力計算においては考慮しない。しかしながら，浸水中間段階での船体の挙動に対しては，この上部の構造物が，1）非損傷状態で水密である，2）全く浮力をもたない場合，3）BHD上の隔壁によってBHDの一部のみに浸水する場合によって，大きく異なる影響を受ける事が考えられる。そこで，本研究では前述の状態に対応する実験状態として，1）BHD上に水密な上部構造物がある状態，2）BHD上の構造物に破口を設けてBHD上に浸水する場合，3）BHD上に浸水するが船体長手方向に浸水が広がらない様に横水密隔壁を設けた場合，の3状態での実験も行った。表4.2-3に全実験ケースをまとめて示す。

　実験においては，模型船の側壁に空けた損傷口をテープで完全に塞いでおき，静水中で静止している船体からテープを静かに剥がし，船体内部へ浸水させた。船体の運動は，上下揺れ，縦揺れ，横揺れが自由であり，浸水最終状態に至るまでの横傾斜角，沈下量，縦傾斜角を計測した。