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4. LPS模型実験
4.1 はじめに
 多層甲板を有する船舶が損傷した場合,区画に進入した水が浸水中間段階において各甲板上に薄く溜まった状況となり,大きく横傾斜する可能性が考えられる。特に,大型のクルーズ客船においては,この中間段階での船舶の挙動が旅客および乗組員の安全性に大きな影響を及ぼすことも考えられる。
 昨年度に続き,本年度もこのような多層甲板船を持つ大型クルーズ客船を対象とした損傷時浸水中間段階の船体運動を実験的に調査し,その安全性について検討を行った。まず,昨年度製作の2次元模型(縮尺1/50)を用いて,損傷破口の大きさおよびその位置,内部区画の状態,初期横傾斜角,上部構造物の有無などの状態が,浸水中間段階での船体運動に及ぼす影響についての詳細な実験を実施し,浸水中間段階において大横傾斜が発生することを確認すると共にその発生原因を明らかにした。しかしながら,前述のような船体中央部のみを切り出した2次元模型では実際の船体とは船首船尾の形状が異なるため,2次元模型で観られた運動が同条件の下に発生しないかもしれない。そこで,3次元模型(縮尺1/125)を製作し,2次元模型と同じ実験状態での実験を実施し,3次元模型においても同様の現象が発生することを確認した。一方で,これらの実験結果は幾つかの機関において作成された,浸水中間段階推定シミュレーションとの比較1))が行われ,数値計算法の妥当性の検討が行われたが,これらの研究において現状の損傷破口からの浸水流入速度推定モデルの結果に差異が見られるとの報告がなされた。そこで,さらに浸水流入速度の計測実験を実施した。
 本報告書では,前述の実施内容を順に報告する。
 
 
参考文献
 
1)Shigesuke ISHIDA, Yoshiho IKEDA, Toru KATAYAMA and Yuji TAKEUCHI: SIMULATION OF TIME-TO-FLOOD OF A DAMAGED LARGE PASSENGER SHIP, Proceedings of the 1st MARIN-NMRI Workshop, Tokyo, Japan, pp.50-53, October 25, 2004.
 
4.2.1 緒言
 衝突や座礁等により浸水した船舶の安全性については,客船「タイタニック」の海難を契機として国際的な法規制定の流れができ,その安全性を担保するためのSOLAS条約が成立した1)
 この条約については,国際海事機関(IMO)の復原性・満載喫水線・漁船安全性小委員会(SLF)において,船舶の大型化や高性能化に伴う技術的な見直しが常に行われ,改定作業が行なわれている。この改定作業に関連して,欧州においては,損傷船舶の安全性評価および船舶設計に及ぼす影響に関する巨大研究プロジェクトがいくつか立ち上がり2)3),大きな学術的成果を挙げるとともに,国際規則への新しい提案がIMOに対しても行なわれ,その規則案に基づく新しい構造形式の船舶の開発などが積極的に行われている。
 こうした流れの一環として,近年続々と登場している5,000名以上の乗客乗員が乗る100,000総トンを超える巨大クルーズ客船の万一の海難時における人命の安全性確保が現行損傷時復原性規則で十分なのかどうかの検討がSLFにおいて行なわれている。
 ここでは,浸水最終段階においての安全性については問題のない船を対象に,浸水中間段階における危険性の有無について水槽実験によって検討した結果について報告する。
 
4.2.2 模型船および実験概要
 対象とする船は,表4.2-1に主要目を示す110,000総トン級の大型クルーズ客船である。この船型は,最近フィンカンテリ造船所および三菱重工業で建造された110,000総トン型クルーズ客船をベースモデルとして,フィンカンテリ造船所において,IMOにおける研究のために設計された架空の船型であり,USコーストガード,MARIN,フィンカンテリ,ストラスクライド大学等における研究4)にも使用されているものである。
 
表4.2-1 Principle particulars of 3-D ship.
Lpp 242.28m
Breadth 36.00m
Draft 8.40m
Displacement 53010t
GM 1.775m
 
 本研究においては,詳細な内部構造の作成のため,できるだけ大きな模型とする必要があったので,同対象船の船体中央の平行部分(ss2.64〜ss5.41)だけの2次元模型を製作した。図4.2-1および表4.2-2に,同2次元模型の概要図および主要目を示す。なお,2次元模型では,船首船尾部の船体がないため,対象船とした3次元船とは横復原モーメントが異なることや,大きく横傾斜をした場合のトリム角および沈下量が異なる。そこでこれらの差異を少なくするために,横復原モーメントについては図4.2-2に示すように横傾斜角20度程度までのGZ曲線が3次元船のものとほぼ同じとなるように,2次元船の重心高さを調整すると共に,トリム角および沈下量については図4.2-1中に示すような浮力体を,模型端部の喫水線上に取り付け,図4.2-3に示すように3次元船のトリム変化に近づけた。ただし,浸水に伴う沈下量の調整については行なっていない。
 
図4.2-1 Schematic view of 2-D model with a float to adjust trim to that of 3-D ship.
 
表4.2-2 Principal particulars of 2-D model ship.
Scale 1/50
Length 1.618m
Breadth 0.728m
Draft 0.168m
Displacement 194kg
 
図4.2-2 Stability curves of 3D-ship and 2-D model with and without float.
 
図4.2-3 Trim of 3-D ship and 2-D model with and without float.







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