2.3 MSC 79の結果
平成16年12月1日(水)〜10日(金)に開催されたMSC 79においてSOLAS II-1章の改正案が審議された。
2.3.1 MSC80での採択に向けたSOLAS II-1 parts A, B and B-1改正案の承認
本件の改正にあたり行ってきたHARDERプロジェクトの結果に対して,SLF 47にイタリアより対案がだされたが,技術的な議論がなされないまま否定されたことから,今次会合でドラフトテキストを改正するとともに,MSC80において保留事項なく採択できるようテクニカルグループを設立するイタリアの提案(MSC79/11/1)及び,HARDERプロジェクトの結果の紹介,本改正案の正当性をアピールしたノルウェー提案(MSC79/11/5, 6)がなされた。
論点を残したまま採択にもっていくわけにはいかないとの観点に基づき,我が国から,すでに本改正案は,MSC80で採択するために独及びデンマークによりCircular Letterが回章されているが,(1)現行では伊案の基づく対改正案がなく支持しようにもできない,(2)もしオフィシャルにMSC80に対改正案を提出するなら,(3)我が国としても専門家をテクニカルグループに参加させる旨の発言をした。MSC80までにテクニカルグループを設立して本改正案の精査を行うことに仏,ブラジル,サイプラス,マーシャル島,イラン,カナダ等が賛同を示した。またデンマークもテクニカルグループについては,賛同するものの,MSC80で本件の採択は行なわねばならず,今後,伊提案以外に精査作業を大きく逸らすようなことが無いように進めるべきと注意した。議長は,本件についてテクニカルグループとして2005年1月第3週目(19〜21日)に中間会合をIMOにて開くこと提案し,また当該会合に委員会からTORを与えるので,参加する専門家は伊提案を充分に理解して望むように要請した。
委員会は,当該中間会合で,伊提案の検討及びII-1/7-1規則改正案の変更の検討これに合意した。
2.3.2 SOLASII-1章19規則に関するコメント(MSC79/11/2,フランス及びスウェーデン)
SOLASII-1章19規則について損傷時復原性に関し,居室を含むすべての損傷パターンについての生存性評価を船長に与える旨の改正案及びガイドラインが仏及びスウェーデンから提案された。米国,独,蘭,フィンランド,ニュージーランド等が支持した。米国は,ガイドライン案を次回SLF48に提出し,次々回会合(MSC81)で承認したらどうかと発言した。我が国からは,本条文改正案を今次会合で承認し,[ ]付きで回章の後,次回会合(MSC80)で採択してどうかと発言した。これに英国も同調した。委員会は,(1)改正案文について今回承認し次回会合で採択すること,(2)ガイドライン案は,IACS,SLF小委員会議長,仏及びスウェーデンで調整してMSC80へ提出すること,に合意した。
2.3.3 損傷時復原性に関するコメント(MSC79/11/3,フィンランド)
SOLAS chapter II-1の改正に関し,DE小委員会に対して,(1)現行のライフボートの備え付け数緩和に関する規定は改正により根拠を失うので,削除するか新たな判定基準を設ける必要があること,(2)改正案のII-1/6.2.3については統一的な適用を保証するためのガイドラインの要否について検討する必要があること,(3)II-1/13で規定される水密ドアの位置については,改正後のChapter Bと関連づけられていないため,必要に応じて変更する必要があること,の3点についての検討を求めるフィンランド提案は,蘭,伊及び仏の支持を受けて,委員会は次回DE48で検討し,MSC80へ報告することに合意した。
2.3.4 SOLAS chapter II-1の改正に関する区画配置が非対称の場合へのコメント
(MSC79/11/4,ノルウェー)
SOLAS chapter II-1の改正に関し,区画配置が非対称の場合の適用についてのノルウェー提案は,既に現行改正案文にカバーされているものもあり,蘭,仏,米国,独,サイプラス,伊等が,前述の中間会合での検討を示し,委員会は合意した。
平成17年1月19日(水)〜21日(金)に開催されたSDS中間会合において以下の審議が行われた。
2.4.1 背景
SOLAS II-1 parts A, B and B-1改正案については,HARDERプロジェクトの成果を中心とした改正案がSLF 47において示された。イタリアは,この改正案が巨大旅客船に必要以上に厳しいとして,SLF47に対案を提出した。しかしながら,これまでに本件にかけてきた歳月を勘案してSLF 47で決着するとの意見が多数であったため,技術的な議論が必ずしも十分なされないままイタリアの対案は否定された。
しかしながら,MSC79において,技術的な議論を行ったうえで,MSC80において保留事項なく採択できるようテクニカルグループを設立する旨イタリアから再度提案があった。論点を残したまま採択にもっていくわけにはいかないとの観点に基づき,日本,仏,ブラジル,サイプラス,マーシャル島,イラン,カナダ等がテクニカルグループを設立して本改正案の精査を行うことに賛同を示した。またデンマークもテクニカルグループについては,賛同するものの,MSC80で本件の採択は行なわねばならず,今後,伊提案以外に精査作業を大きく逸らすようなことが無いように進めるべきと注意した。
この結果MSC議長は,本件についてテクニカルグループとして2005年1月第3週目(19〜21日)に中間会合をIMOにて開くこと提案し,また当該会合に委員会からTORを与えるので,参加する専門家は伊提案を充分に理解して望むように要請した。日本からは海上技術安全研究所小川主任研究員が出席した。
2.4.2 審議概要
会議は,MSC議長トムアラン氏の挨拶の後,SDS WG議長タッグ氏(米)の司会で進められた。審議は,大型船のp係数にのみ限定して行われた。
SLF47における改正案では,p係数を決めるうえで重要なファクターとなる損傷の大きさは船の長さに応じて一義的に大きくなると定義している。イタリアは,損傷データの再解析結果を基に,大型船では現実離れした損傷の大きさとなるため船長に上限を設ける必要があると主張し,上限を設けたp係数の計算式を提案した(MSC80/3,80/3/1,80/3/2)。
これを趣旨とするイタリア文書(MSC80/3,80/3/1,80/3/2)とこれらに反論するNorway文書(MSC79/11/6)の説明と質疑応答が行われた。HARDER及びイタリア両案の良し悪しについては明確な結論は出なかった。しかしながら,損傷データの解析について改めて検討した結果,現状の損傷データでの大型船のデータ数は中・小型船のそれらに比べると少ないこともあり,必ずしも損傷の大きさと船長の関連づけが明確でないとの認識は出席者の間で一致した。
その結果,船の長さの上限を,260mに設定してp係数の計算式を改正すること,p係数を新しくすることで値が変わるA係数をもとにR係数の計算式も見直す事で合意が図られた。これは,既に合意されているA/Rの関係を変えないとの理由による。2005年3月までに260m以上の船の計算をやり直して,新しいRの算式も含めてMSC80に提出することとなった。
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