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4. 船体保全マニュアルの現状調査
4.1 船体保全関係資料の提供会社
 資料はオペレータ2社、インハウス船舶管理会社2社、独立系船舶管理会社1社から入手した。これらの会社の内、2社が3章のヒアリング協力会社である。
 
 表4.2-1に収集した資料の概要を示す。
 船体保全関係で収集した資料を分類すると「SMSマニュアル」「保船方針書」「点検要領書(損傷事例集)」「OBM管理書(保全内容、保全インターバル、報告)」である。
 以下に概要を説明する。
(1)SMSマニュアル
 ISMコードで備えることを強制している。詳しく後述する。
(2)保船方針書
 船体の管理全般に渡り管理方針を記述したものである。今回は以下の二つがあった。
(1)オーナが管理会社へ指示しているもの(番号3)
(2)自社のマニュアルとして、また船舶管理会社への指針として提供しているもの(番号4)
(3)船体点検要領書(損傷事例集)
 一般に船級のガイドライン及びTanker Structure Co-operative Forum、OCIMF等の船舶運航・造船関係団体の資料、造船所の技術資料、また自社の損傷事例から重点点検項目、点検要領が記述されている。
 表には載せていないが、「NK船級発行の板厚計測要領書」「NK船級発行の船主/オペレータの為の船級維持の手引き」はそのまま要領書(重要図書)としている会社が多い。
(4)OBM管理要領書(保全内容、保全インターバル、報告)
 本船でOBMを遂行するために保全内容、保全のインターバル、記録の残し方・ファイリング方法、会社へ報告書手順が記述されている。一般にコンピュータシステムを利用している。当システムを利用して会社への報告書作成も可能である。
 
表4.2-1 船体保全マニュアルの種類、概要
番号 マニュアル
分類
マニュアル
の種類
対象船種 概要 ページ数
1 SMSマニュアル SMSマニュアル All 1. 陸上用マニュアル (1)規定には保船規定の目的、保船担当責任、修理等の発注、入渠管理、受験計画、保守整備方針、管理業務の全般に関して概括的に記述。(2)手順書では「検査証書類の管理」、「検査準備」、「入渠工事」、「工事・部品発注」、「保船関連業者評価」、「保守整備計画」がある。 25
2. 船上 (1)規定には保船規定の目的、保船担当責任、保船計画一般、重要機器の定義、会社への提出書類名等が記述されている。(2)手順書では「証書類の管理」、「船体及び機器の検査」、「船舶検査受験」、「保守整備計画」「重要機器保守」等である。 33
2 SMSマニュアル SMSマニュアル All 1. 陸上用マニュアル (1)「入渠管理」(2)「保全計画」(3)「損傷時の報告及び処置」 5
3 保船方針 保船方針 All 船舶管理会社に対する保船の基本方針の説明。船種毎に船体管理方針を説明。 23
4 保船方針 タンカー船体保全指針 Chemical Tanker コルゲート構造タンカー船体の保全管理指針。構造、損傷事例、原因、検査の計画、データ収集及び分析、評価。 41
5 船体点検要領書 タンカーの船殻構造及び損傷部材 VLCC VLCCの構造と損傷部材(損傷、腐食)、重点点検箇所について、Single Hull、Double Hull別の指針 20
6 船体点検要領書 タンカータンク内点検要領 VLCC タンクの点検時期、重点点検箇所をまとめたもの。 8
7 船体点検要領書 Double Hull Tanker検査Check List Tanker Double Hull Tankerの構造と点検箇所の説明 12
8 船体点検要領書 ORE CARRIER Tank検査マニュアル ORE Carrier ORE CARRIERの図による重点点検箇所の説明 7
9 船体点検要領書 船体保全作業内容と作業インターバル Tanker 船体保全内容、保全インターバルの表 7
10 船体点検要領書 タンカーの船殻点検要領 Tanker タンカーの船殻の点検箇所の指針 6
11 OBM管理要領書 OBM保守整備管理要領 All 船上保守管理コンピュータシステムを利用した保全管理手順の説明。保全作業内容、インターバルの表出力と保全結果の入力、報告書の作成を行う。 20
 
 ここで、船舶管理上で基本となるSMSマニュアルについて説明を行う。
 SOLAS条約では、外航船はISMコード(国際安全管理コード)を取得し、SMS(Safety Management System)を構築することを義務付けている。その中心となるのがSMSマニュアルである。
 図4.3-1はSMSマニュアルの構成であり、中心より左が陸上用、右が船上用を意味する。
 SMSマニュアルは、規定と手順書に分けられる。
 規定では一例であるが、「安全管理方針」「社内組織規定」「安全管理システム変更管理規定」「文書管理規定」「内部監査規定」「船舶の安全運航管理規定」「船舶による環境保護規定」「船舶の保全管理規定」「船舶の安全衛生規定」「船員管理・陸上従業員教育規定」「船舶の緊急事態対応に関する規定」が文書化されている。
 手順書は規定をさらに具体的に記述したものである。
 実際には、SMSマニュアルの部分だけで、SMS作業の全てを記述できないので、更に作業実行レベルまでブレークダウンしたものが現場指示書である。SMSマニュアルで一律に決められても各船の仕様の違い等から必ずしも実用的でない場合があり、個々に現場にあった現場指示書を作成して対応している。
 また、SMSマニュアルのコントロール下で保全マニュアルが作られている。
 
図4.3-1 SMSマニュアルの構成
 
(1)SMSマニュアル・保全管理規定の例
 SMSでは、保全管理を文書化して、規定することとしている。
 今回の調査したA社のマニュアルの保全管理の規定部分の概要は以下の通りである。これらの規定をさらに手順書に詳細に記述しており、乗組員及び陸上の本船担当者(SI: Superintendentと称す)は業務を遂行する。
(1)適用
 ここでは、当文書の適用範囲が記されている。
 保全の定義を船体、諸設備、諸機械を良好な状態に維持することを目的として実施する点検、保守整備、修理、改造及び受検としている。
 保全は、SIが発注等により修理業者、メーカ、造船所に実施させる業務と乗組員が行う業務がある。
 具体的には、以下の業務である。
・入渠工事、外注工事、受検及び部品の発注手配、保船管理上の保全管理業務
・乗組員による運転管理、点検、保守整備及び修理等、保全管理上の保全業務
・船用品及び潤滑油の発注手配等、運航管理上の保全管理業務
(2)目的
 保全管理業務を適切に実施することにより、船舶を良好な状態に維持し、安全かつ効率的な運航を確保することとしている。
(3)責任
 保船管理を行うのはSIであり、入渠工事等の外注工事、受検計画、これらに責任があるとしている。また、本船側の業務では、乗組員の責任者を決めている。
(4)発注及び受検管理業務
 「工事及び部品発注管理」「入渠工事管理」「船用品及び潤滑油発注管理」「業者の評価」「発注管理上の各国法令順守」「発注管理業務の不具合是正」「受検計画及び検査」について規定している。
・「工事及び部品発注管理」では、SIは「工事・部品発注手順書」に従って、業務をすることと記述している。
・「入渠工事管理」では、SIは工事仕様の決定、仕様書の作成業務を行う。また、工事監督方法は「入渠工事に関する手順」に従って管理を行うこととしている。
・「受検計画及び検査」ではSIは「船舶の検査受検手順書」に従い、受検及び管理業務を遂行することとしている。また、「検査証書類・重要図書管理手順書」に従って証書類の管理をすることと規定している。
(5)本船側の保守管理責任者
 船体及び各設備の保守管理担当者を記述している。
(6)保守整備方針
 「保守整備基準書」に従い業務を遂行することとしている。
(7)本船管理及び技術管理
 「本船管理・技術管理全般」「重要機器の定義」「訪船チェック」を規定している。
・「本船管理・技術管理全般」では、SIの仕事は、保守整備の妥当性の検討、コスト面での評価、保守方法の改善、故障の分析、乗組員への助言、予防保全管理方式による各種受検に関する要領書の作成・実施に関する本船指示としている。
・「訪船チェック」では、SIは本船の整備状況、乗組員の業務遂行状況に関して定期的に訪船チェックし、必要に応じて指示を与えるとともに責任者に報告することとしている。また、手順は訪船チェックリストによるとしている。
(8)証書、図書、記録及びその他の文書類の管理
 保船管理上の文書、運航管理上の文書の管理について記述している。
(2)SMSマニュアルと保全管理業務
 船体保守整備との関係でSMSマニュアルから以下のことが言える。
(1)SIは船級規則に従い、船舶を管理すること。
(2)SIは保全計画を本船と協力して作成すること。
・保全のマニュアルを作成すること。
・保全作業内容とインターバルを決定し、OBM計画表を作成。それを本船に提出し、それに基づいてOBMを遂行する。
(3)入渠工事、受検の計画をSIが行うこと。
(4)外部への工事発注はSIが行うこと。
(5)本船側はOBM計画表に従い、OBMを消化すること。また、保全マニュアルに書かれた方法で業務を遂行する。本船は会社に対して整備報告書、故障報告書等の決められたFormで報告すること。
(6)SIは保全に関する手順において、本船乗組員を指導すること。
(7)SIは本船の保守整備の進捗を管理し、評価すること。
(8)SIは工事等の外注業者の評価を行うこと。
(9)SIは、費用使用の進捗状況、本船のコンディションを決められた時期に会社の責任者及び船舶オーナに報告すること。
(10)SIは故障、損傷の軽減、未然の防止について策定すること。その結果、保全マニュアル、SMSマニュアルの改訂、技術資料の作成を行うこと。それらを本船に指示すること。







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