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 また、船体梁の強度やFEAによる貨物倉構造の強度評価のように全体的な強度を評価する場合には、構造体全体では、中心極限定理により確率レベルとしては平均的なものを用いることができる。これについて、腐食予備厚の半分の値を平均的な腐食量として取り扱うこととしている。なお、腐食予備厚の半分の値を元厚から差し引いた寸法における船体横断面係数は、船体縦強度上の衰耗限度である元の船体横断面係数の約90%となる。このことから、全体的な構造のネット寸法における強度、即ち、衰耗限度に達した状態における強度を評価する場合、腐食予備厚の半分を考慮する手法は、腐食量の設定が容易であるだけでなく、妥当なものといえる。
 また、疲労強度評価は、評価期間において時々刻々と変化する腐食量を考慮することが困難なことから、便宜的に平均的な腐食量に相当する腐食予備厚の1/2を考慮する。これらをまとめたものを表2に示す。
 
表2 Net Scantling Approach
  考慮する腐食量 Hull girder stressの扱い
Local Strength Plate tc 0.5tc
Stiffener tc 0.5tc
FEA Yielding 0.5tc 0.5tc
Buckling
Hull girder strength Yielding check (UR S11) Gross offered
Ultimate strength check 0.5tc
Fatigue assessment 0.5tc 0.5tc (0.25tc)
 
 疲労強度評価におけるHull Girder Stressの取扱いが異なっているが、タンカー規則では、直接腐食を考慮しているのに対し、ばら積規則は、それを影響係数として考慮しているため、ほぼ取扱いは同じといえる。
 なお、タンカー規則とばら積船規則における衰耗限度は、一部の部材を除きほぼ整合したものとなっている。しかし、Net 寸法手法を適用して要求寸法の算定方法については、切り上げ方式を採用しているばら積船規則と2捨3入方式を採用しているタンカー規則では整合が計られていない。
 
(5)限界状態評価
 船体構造部材を船体梁、主要構造部材(主として横強度部材)、局部強度部材(パネル及び防撓材)及び構造詳細に分類し、それぞれに対し評価すべき強度を表3のように整理した。
 
表3 Structural strength assessment
  Yielding check Buckling Check Ultimate Strength check Fatigue check
Local Structures Stiffeners
Plating subjected to lateral pressure *1 -
Primary supporting members *2
Hull Girder *3 -
Note: indicates that the structural assessment is to be carried out.
*1: The ultimate strength check of plating is included in the yielding check formula of plating.
*2: The ultimate strength check of primary supporting members is based on shear capacity check of primary structures such as the double bottom structure.
*3: The buckling check of stiffeners and plating taking part to hull girder strength is performed against hull girder bending stress.
 
 なお、主要構造部材の強度評価は、船の長さが150mを超える船舶については、有限要素法による強度計算(直接強度計算)による。150m未満の船については、現在検討中である。
 主要構造部材の最終強度を直接強度計算により評価することは現状の技術レベルでは現実的でないため、Note*2にあるように、浸水時の二重底強度評価に用いている簡易なせん断強度耐力を評価する方向で現在検討中である。 また、構造強度も荷重(demand)レベルと関連した以下の限界状態を設定した。
・使用限界状態(Serviceability limit state, SLS)
・終局限界状態(Ultimate limit state, ULS)
・疲労限界状態(Fatigue limit state, FLS)
・事故時限界状態(Accidental limit state, ALS)
(a)SLSは、文字通り通常の使用状態(通常の航行状態)において頻繁に遭遇するであろう荷重レベル(超過確率[10-4])に対し、構造部材が、有害な永久変形(塑性)しないことを確認するもので、防撓材を両端固定の単純梁として断面性能を規定する現行規則の評価式やFEMによる直接強度計算がこれに相当し、就航実績或いは最終強度を考慮した安全率を用いて評価することになる。
(b)ULSは、船の想定使用期間において想定される最大荷重(超過確率10-8)に対し、構造部材が崩壊しない、即ち、当該荷重に耐えられることを確認する。
(c)FLSは、船の想定使用期間(25年)において遭遇する繰り返し荷重に対し、疲労亀裂が発生しないことを確認する。
(d)ALSは、一部損傷後或いは一部損傷による浸水が、逐次進展して最終的に全体崩壊とならないことを確認すればよいが、通常は、逐次進展しないことを確認するもので、IACS UR/S17, S18, S20にある浸水後の縦強度、隔壁強度、二重底強度の評価が該当する。
 さらに、2004年12月に開催されたIMO MSC79で採択された防撓パネルの冗長性に関する要求もこの限界状態に対応している。
 なお、船首船底スラミングやスロッシングのような衝撃荷重に対して、局部強度部材は、最大の衝撃荷重に耐えるものとし、局部強度部材を支持する桁部材は、平均的な衝撃荷重に対し、初期降伏を生じないこととしている。
 
(6)技術的事項の詳細
 設計荷重評価、局部強度評価算式、直接強度評価手法、疲労強度評価方法、最終強度評価手法など技術駅詳細については、タンカー規則とばら積貨物船規則でほぼ整合しているものあれば整合していないものもあり、これらについては、多くの試計算及び損傷実績との対比を行い、現在調整しているのが実状である。
 
2.3.5 最近の動向
 2004年11月に横浜で開催されたTripartite Meetingにおいて、日本及び韓国の造船工業会がタンカー規則の第1次草案を適用した場合における船殻重量増加について衝撃的な試計算結果を提示した。その会合の結論として、再度韓国及び日本において詳細な規則の説明会を開催することとなった。また、両者の規則が整合していない状況で、IACSで採択しても各船級協会の技術委員会で採択されない可能性もあることから、最低限解決すべき事項“Blocking Factor”をIACSに通知した。
 JBPは、以下の4つの一般的事項と船殻重量増加に対する影響の大きい4つの技術的事項を“Blocking Factor”としてIACSに提出した。
一般的事項
(P-1)国際的な規制機関の期待への合致
 IMOや主管庁など国際的な規制機関の期待に合致させるため、IACSが設定する重要なパラメータは、JBP/JTP CSR双方で明確にするべきである。
(P-2)業界の関与及び容認
 JTP及びJBP並びに日本、韓国及び中国造船界間で、CSR第2次草案を議論するための場を設け、CSRを良い方向にもっていかなければならない。
(P-3)透明性
 JBP、JTP双方が、透明性に関して、技術的背景、試計算結果、計算式、パラメータの選択、腐食予備厚及びそれらに関連するソフトウェアツールを最大限公表するべきである。
(P-4)将来における規則開発のためのモジュール化
 将来における規則開発のために、共通事項と船型に固有な事項に分けるモジュールコンセプトを導入すべきである。
技術的事項
(T-1)波浪荷重
波浪せん断力の50%増は、経験的正当性が欠如しており、過度なものである。
(T-2)腐食予備厚
 腐食予備厚を定義するネット寸法アプローチは、JBPが、切り上げ方式なのに対し、JTPは、ネット寸法を下回ることを許容する二捨三入方式である。また、JTP規則の腐食予備厚は、部材ごとに設定されており、IACSが設定した重要なパラメータである腐食環境に応じたものではない。
(T-3)船体の縦曲げ最終強度
 JBP規則の波浪荷重に対する部分安全係数γw(1.15)に対し、JTP規則の波浪荷重に対する部分安全係数γw(1.35)と、非常に大きい数値である。
(T-4)疲労
 JTPの疲労強度評価では、実際の損傷データを説明できないばかりか、損傷していない箇所の大幅な寸法増加をもたらすものであることが、タンカーの試計算結果から判明した。
 これを受けて、2004年12月に開催された第50回IACS理事会は、JTPサイドがばら積船規則を受け入れるためのBlocking Factorの提出を求めた。また、各船級協会の技術委員会におけるBlocking Factorを2005年1月末までに提出することを求めた。なお、NKからも上記に設計の自由度の確保を求める事項を追加してBlocking Factorを提出している。
 また、JTPが提案したBlocking Factorは、以下のとおりである。
 
・Quartering/oblique seas should be included in the load cases for bulk carriers.
・The 50 per cent increase in wave shear force is logical and has been pursued by IACS technical experts for some time, however this difference in approach needs to be resolved.
・The derivation of corrosion additions must be communicated clearly to industry and all areas where there is essentially the same environment must be treated in the same way. If the current differences are not resolved then acceptance of the rules will be problematic. JTP includes a 0.5mm difference between the corrosion addition and the wastage allowance as an explicit addition as an allowance for corrosion between surveys, which represents a significant difference in the net thickness philosophy. JTP believes the current corrosion additions in JTP rules are the minimum the ship owners will accept. They have been very concerned about the perceived reduction in operating life.
・The aim of JTP was to produce a set of Rules that would eliminate competition between classification societies on scantlings and the number of options open for assessing designs is correspondingly reduced. This is particularly evident when considering finite element analysis, and the lack of a single prescriptive procedure in JBP is an issue as this, along with some other areas, appears to offer routes which could result in different scantlings. JTP calibration has extended to comparing software solutions using the JTP FE Procedures and the results obtained support the intention as very small differences have been found.
・There is a concern that industry has detected that there is a significant difference between 'common rules' and 'common scantlings' and this must be resolved to gain acceptance. JTP feedback supports 'common scantlings'.
・The number of black box solutions has to be minimized.
・The significant differences in approach identified by JBP, including fatigue, buckling and ultimate strength could become issues that affect acceptance of the Rules but there is clearly insufficient time to resolve these matters unless the schedule for publication is revised. The JBP fatigue procedure does not follow standard industry practice although it does appear to give results which are rational reflections of the limited experience from service. The ultimate strength procedures continue to be assessed, however the results appear similar.
 
 これらのうち、ばら積貨物船規則における斜め波に対応すべく検討が進められており、また、タンカー規則において過大であると指摘されている縦曲げ最終強度評価における波浪縦曲げモーメントに対する部分安全係数も1.35から1.30に変更されており、さらに、ばら積貨物船規則との整合性をはかる検討もなされている。
 また、2005年2月21日から25日に、韓国及び日本において両規則の説明会が開催された。
 ここでは、上述のように解消すべきBlocking Factorやスケジュールなどの議論や2004年11月に横浜で開催されたTripartite Meetingでの合意事項である詳細な技術的説明がなされた。
 それに対し、日本及び韓国の業界からは第2次案に対するレビューが必要である、両規則の整合性をはかるべきである、IMOでのGBSの議論を踏まえるべきなど様々な意見がだされた。しかしながら、ヨーロッパを中心に共通構造規則の制定を求める声が強いのも現状である。
このような状況から、さらにスケジュールなどが見直される可能性がある。
 
2.3.6 終わりに
 IMOにおけるGBSは、Bahama、Greak及びIACSの共同提案文書をスタートポイントとしている。その共同提案文書に横たわる基本的な考え方は、上記4.に示すものである。従って、IMO GBSの考え方に大きな変更がない限り、CSRはGBSに沿ったものとなる。
 また、CSRは、技術的には、State of artsともいえる事項も含めているため、詳細事項や評価手法について一部整合してはいないものの、構造強度をより合理的に評価することにしており、また、就航後における構造強度も合理的に評価することとしている。現状では、構造寸法増加に及ぼす影響や、損傷実績との対比など、解決すべき事項があるが、今後さらなる検討を加えることにより、CSRは、船体構造の安全性、Robustを求めるIMO、政府機関、船主、荷主など多くの関係者の期待に沿うものになると思われる。







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