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2.3 国際船級協会連合(IACS)共通構造規則(CSR: Common Structural Rule)開発の動向
2.3.1 はじめに
IACSは、今までに検査、構造強度、材料、機関、電気設備、防火構造、消防設備、艤装品等に関する多くの統一規則(Unified Requirements: UR)や条約の解釈(Unified Interpretation: UI)等を制定しているが、これらのUR・UIのうち、船体強度に関するものは、船体梁強度、材料の使用区分、舵、水密戸、風雨密戸等に関する規定の他、倉内構造の損傷が重大な事故に繋がったばら積貨物船の倉内肋骨、浸水後の縦強度、隔壁強度及び二重底強度に関する規定のみであり、船体の構造全般を網羅する規定を設けていない。多くの構造関連規定は、各船級協会における膨大な経験を基に、各船級協会独自に開発したものであるため、同一設計の船舶であっても、船級協会が異なれば要求する構造寸法や構造詳細が異なっていた。また、腐食予備厚や切替基準も異なっているため、就航中の船舶の検査基準も各船級独自の規定となっている。しかし、各船級は、各自の努力により、大半の船舶は一定の安全レベルを保持してきた。しかしながら、タンカーやばら積貨物船において、重大な事故が近年においても発生しており、特に、タンカー事故は海洋汚染を伴うことから、船主、IMO、港湾関係者、その他関連する団体は、船舶を、より安全で、かつ、頑健な船舶を熱望している。そのような状況から、IACSは、構造寸法に関する不適切な競争を排除するとともに、船主、IMOなどの要望に応えるべく、より安全で、頑健な船体構造とし、船体構造全般を網羅する共通の構造規則(Common Structural Rule: CSR)を制定することを2003年6月に開催された第47回理事会で決定した。
一方、ABS, DNV及びLRSの3船級協会は、2000年末に3船級協会共同で150m以上の二重船殻タンカーのCSRを開発するプロジェクト(Joint Tanker Project: JTP)を発足させていた。また、CCS, KR及びNKは、タンカー及びばら積貨物船の直接強度計算、疲労強度評価の共通のガイドラインを開発するプロジェクト(A3 Project)を2002年9月に発足させていた。さらに、2002年12月に開催されたIMO MSC 76での合意事項である150m以上のばら積貨物船に対する船側構造の二重化を受けて、BV, GL及びRINAは、二重船側ばら積貨物船のCSRを制定するプロジェクト(UNITAS Project)を2003年に発足させていた。これらのプロジェクトは、IACS外で行われているものであるが、それらをIACSとして認知するシステムを構築するとともに、ばら積貨物船のCSRは、A3プロジェクトとUNITASプロジェクトを合体させ、RSを加えたJoint Bulk Carrier Project(JBP)は90m以上のばら積貨物船で、単船側構造及び二重船側構造の共通構造規則を開発することとし、更に、UR等を制定・改廃する常設作業グループの活動のうち、CSRに影響を及ぼす恐れのある活動を休止することを2003年12月に開催されたIACS第48回理事会で決定した。
従来からのIACS内におけるUR制定改廃の組織図とCSR開発の組織図を、Fig.1に示す。
2.3.2 CSR開発スケジュール等
(1) 第48回IACS理事会
IACSは、2003年12月に開催された第48回理事会にて、各Project Teamで作成したCSRを、レビューするグループ(AHG/RPE: Adhoc group / Review panel of experts)を設け、設計思想の一貫性等の見地から審議し、必要であれば修正を行い、IACSとしてのCSRとすることを決定した。また、本CSRは、IACS全船級協会が受け入れ、履行することも決定した。このとき決定されたCSR開発スケジュールは、以下のとおりである。
・2004年3月 タンカー及びばら積貨物船規則案並びにその技術的背景などの開発状況をIACS内部ワークショップにて検討
・2004年12月 採択
・2005年7月 施行
なお、採択までの間に、共通規則開発における透明性を確保するため、作成過程において幅広く業界の意見を聴取し、そこでの意見、疑問をCSRにフィードバックさせることとした。更に、これと平行してばら積貨物船及びタンカー規則の設計思想や詳細な技術規定の整合性を計る作業をAHG/RPEで2004年5月までに実施することも併せて決定した。
Fig.1 Organization of IACS and CSR Project
(2)第49回IACS理事会
2004年6月に開催された第49回理事会において、IACS CSRの制定スケジュール及び手順に関する統一手続き規則(PR30: Procedure Requirements No.30)を採択した。また、CSRをレビューし、整合性をはかるためのグループRule Technical Harmonization(RTH)を設置した。PR30によるCSR開発スケジュールは以下の通りである。
・2004年6月 業界の意見を聴取するための草案の公表
・2004年9月 業界による草案のレビュー及びレビュー結果の通知
・2004年10月 業界意見を反映した第2次案の作成
・2004年11月 各船級協会の技術委員会に第2次案を諮問及び審議結果をIACSへ通知
・2004年12月 第50回IACS理事会において採択
・2005年7月 施行
なお、RTHは、CSR草案の公表後採択までの間、CSRの整合性を計ることとなった。
しかしながら、2004年9月末までに業界から寄せられたコメントは3000件を超え、その多くが、レビュー期間の延長などスケジュールに関する事項であったことから、IACSは、スケジュールを見直すために10月末に臨時理事会を開催した。
(3)IACS臨時理事会
IACS臨時理事会においてCSR開発スケジュールを6ヶ月延期することが合意された。見直されたスケジュールは以下のとおりである。
・2004年12月 草案のレビュー
・2005年3月 第2次案作成
・2005年6月 第41回IACS理事会において採択
・2006年1月 施行
現在このスケジュールでCSRは開発されることになっているが、アジアの造船関係者からは、第2次案のレビューが必要との意見が多く出されており、本スケジュールは再度見直されるかもしれないものである。
2.3.3 CSRの構成及び目次
(1)CSRの構成
CSRは、将来的なことも考慮して、モジュール化された構成とすることが第48回理事会で合意された。その構成は、第1編として、すべての船舶に共通する要求事項を記載し、第2編としてタンカーに対する追加要件、第3編として二重船側ばら積貨物船に対する追加要件を記載し、将来的に、他の船種に対する追加要件を定める場合は、第4編以降に記載することとしている。
(2)CSRの目次
CSRの目次として各船級協会規則、UR・UIを参考に、目次案を作成しましたが、2005年2月現在の目次は、表1に示すように、タンカー規則とばら積貨物船規則と異なる形になっている。
Table 1 Table of contents
| CSR for Bulk Carriers |
CSR for Tankers |
| Chapter |
Title |
Section |
Title |
| 1 |
General Principle |
1 |
Introduction |
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2 |
Frame of the Rules |
|
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3 |
Notations |
|
|
4 |
Basic Information |
| 2 |
General arrangement design |
5 |
Structural Arrangements |
| 3 |
Structural design principles |
6 |
Materials and Welding |
| 4 |
Design loads |
7 |
Loads |
| 5 |
Hull girder strength |
8 |
Scantling Requirements |
|
|
App. A |
Hull Girder Ultimate Strength |
| 6 |
Hull scantlings |
9 |
Design Verifications |
|
|
App. D |
Buckling Strength Assessment |
| 7 |
Direct strength analysis |
10 |
Buckling and Ultimate Strength |
|
|
App. B |
Structural Strength Assessment |
| 8 |
Fatigue check of Structural details |
App. C |
Fatigue Strength Assessment |
| 9 |
Other structures |
11 |
General Requirements |
| 10 |
Hull outfitting |
|
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| 11 |
Construction and testing |
|
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| 12 |
Additional Class Notations |
|
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| 13 |
Ships in Operation, Renewal Criteria |
12 |
Ship in Operation Renewal Criteria |
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これらについては、第2次案策定後採択までの間に、両者の調整を図ることが計画されている。
2.3.4 主要な技術事項
(1)Core Parameter
航路制限なしに運航する鋼製の船舶をより安全に、かつ、Robustにする目的で以下の設計パラメータを共通構造規則のCore Parameterとして決定した。
・設計寿命:25年(疲労寿命及び腐食量の評価期間)
・環境条件:北大西洋
・強度評価:非損傷状態に加え損傷状態又は浸水状態において腐食を考慮したネット寸法に対する強度評価
(2)設計寿命等
設計寿命は、従来の構造規則や船級規則では明確にされていなかった。これについて、LMIS((Lloyd Maritime Information Service)2000年のデータから、タンカーの平均使用期間22.4年、ばら積貨物船の平均使用期間は23年、全船舶における平均使用期間は約25年であることから、25年を設計寿命とすることになったものと考えられる。
なお、従来波浪縦曲げモーメント及び波浪せん断力を10-8レベルの値を採用している。これを想定使用期間(設計寿命)に言い換えた方が理解しやすいため、海洋構造物の構造設計において考慮される10-8レベルに対応する再現期間である凡そ20年を、そのまま船舶に適用して説明していたものと考えられる。この説明用に仮定した設計寿命が広く定着したものと思われる。現行規則では明記されていないが前提としている設計寿命を、CSRは明確にしただけであり、妥当なものと判断される。
(3)環境条件
現行のIACS統一規則である縦強度規則において、設計荷重は、北大西洋の波浪データをベースとしている。これは、強度規定として想定使用期間に遭遇するであろう最大荷重を考慮する必要があり、船舶の航路を制限しない船舶を対象としているため、航行する可能性がある限り、最も厳しいであろう環境条件を考慮することは妥当なものと考える。
しかしながら、疲労強度を評価する場合は、実際に遭遇するであろう荷重履歴を考慮する必要があるため、想定使用期間の間、北大西洋だけを航行する船舶は皆無であることから非常に厳しい環境を想定していることになる。これについては、多くの関係者がコメントしており、見直されるかもしれない。
(4)ネット寸法手法
Net Scantling Approachは、就航後において生じるであろう腐食による板厚減少後の構造強度について評価する手法である。ここで、就航中における板厚減少(腐食量)は、NKが開発した腐食進行モデル及び数十万点に及ぶ板厚計測結果から算定される船齢25年における累積確率レベル90%の値を許容衰耗量とし、それに、定期的検査における腐食進行分を考慮した数値(0.5mm)を加えた値を局部強度部材の腐食予備厚とするものである。(下図参照)
Corrosion Additions & Margins
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