二月の先進七カ国財務相・中央銀行総裁会議(G7)と三月の中国全国人民代表大会(全人代)を控え、再び人民元切り上げ問題が注目されてきた。先に発表された予想を上回る昨年の高い成長率や金融改革の進展など、すでにその環境は整ったとみたい。
人民元の切り上げは、塩川正十郎前財務相が一年前のG7で言及した後、スノー米財務長官が中国に強く求めたことで完全に国際通貨問題になった。しかし、中国は米国の圧力をかわすため、航空機輸入や通商高官協議の設置などでお茶を濁し、米ドル連動の実質的な固定相場制を変えていない。
昨年の中国の成長率は政府目標を大幅に上回る9.1%となった。前年比35%増を記録した輸出と、これに伴う進出外国企業や優良国有企業などの設備投資が主因だ。その背景にはドル連動の人民元安がある。
一人当たり国内総生産は沿海部の主要地域で五千ドル前後に達した。政府は「新たな成長段階に入った」と宣言し、内需の比重を高めることを示唆している。ならば、通貨切り上げは必然であろう。変動相場に移行したアジア通貨に比べてもフェアではない。
中国が通貨制度見直しの前提としてきた金融改革も進んだ。四大国有商業銀行は赤字国有企業への融資で40%とも50%ともいわれる不良債権比率にあえぐ。その中では比較的傷の浅い中国銀行と中国建設銀行に四百五十億ドルという巨額な公的資本が注入された。
豊富な外貨準備を原資としており、これで不良債権を償却するのかどうか判然としないが、ともかく自己資本比率は大幅に上昇した。両行の不良債権処理はめどがつき、海外株式市場への上場も目指すという。
中国では国有商業銀行と国有企業が一蓮托生(いちれんたくしょう)の関係にあり、同時並行で改革を進めてきた。国有企業は政府に代わって年金や病院など社会保障を担ってきており、ここへの打撃を避ける意味でもドル連動を維持してきた。
しかし、経済が新たな成長段階に入り、金融改革が進んでいるとすれば、切り上げの環境は整いつつある。当局のドル吸収、人民元放出で一部には投資過熱現象も出ており、放置すればその解消コストは大きい。もう中国自身のためにも切り上げた方がいい。
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