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2004/03/06 産経新聞朝刊
【主張】中国全人代 望まれる世論反映の制度
 
 胡錦濤国家主席と温家宝首相を主軸にした中国の新政権が発足して一年がたち、年に一度の全国人民代表大会(全人代)十期第二回会議の季節がめぐってきた。任期(五年)替わりの昨年の第一回会議と異なり、指導部人事はないが、新政権が自前の方針を示す初の会議として、江沢民前政権との違いに内外の関心が集まっている。
 会議初日に温首相が行った政府活動報告は、経済発展に伴うひずみを是正するための多くの施策を掲げた。新型肺炎(SARS)危機に見舞われた昨年も9%超の成長を遂げるなど、中国経済は依然、好調にみえるが、一方で格差の拡大や失業者の増加、環境破壊の進行、産業事故や犯罪の激増など、社会矛盾は深刻化の一途にある。
 前政権が予算編成した過去一年、中国は成長率の目標達成のため公共事業投資を高水準に維持、かえって社会矛盾はひどくなった。ある統計によると、昨年だけで五十人以上が参加したデモ、ストなどの異議申し立て行動は、六十六万件も発生したという。
 温首相の報告が、農村支援や失業対策など「弱者救済」にかつてない規模の予算を投入する方針を示したのも、成長の陰で社会不安が増している現実を放置できなくなったためだろう。
 活動報告で興味深いのは、政府は、メディアや社会の監督を受けねばならないとしていることだ。胡・温政権は発足以来、世論を重視、いまや最も有力な世論ツールになったインターネットの利用者の間では、圧倒的な支持を受ける。政権の親民路線への支持であり、今回の政府活動報告の路線も、その延長線上にある。
 しかし問題は、ネット利用者が比較的若年で高学歴、高収入の都市住民に偏していることだ。むろん意見を聞かないよりはいいが、国民の意思を反映しているとはいえないし、弊害もある。政権のネット世論重視は、全人代の機能が十分でないことも一因だ。
 全人代は、中国の国会と呼ばれる。年一回、十日間ほど開かれ、討議もそこそこに議案を採択して終わる「国会」である。全人代代表の選出過程は透明性を欠き、国民の代表には程遠い。いま胡・温政権が迫られているのは、政治の民主化であり、世論を反映できる制度の確立にほかなるまい。
 
 
 
 
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