米国のスノー財務長官が、中国人民元の切り上げ問題に言及し始めた。人民元が米ドル連動のためドル安効果が働かないためだが、日本にとっては安い人民元がデフレ圧力や産業空洞化につながっている。米国とともに切り上げ圧力をかける絶好の機会である。
米国はデフレ懸念の中で経常収支と財政収支の双子の赤字問題が顕在化、金融政策も限界にきている。このため、ブッシュ政権はドル安を容認することでデフレ懸念の抑制と輸出増加による景気悪化の阻止を図っている。
ところが、円やユーロは対ドルで切り上がっているのに、人民元にはそれがない。人民元の公定レートの算出は主要通貨の加重平均とされるが、現実にはこの数年、対ドルレートはほとんど動いておらず、ドルにリンクさせた実質固定相場制だからだ。
米国にとって中国は、すでに三年前から日本に代わって最大の貿易赤字国となり、不均衡は拡大する一方だ。米輸出業界からの強い働きかけもあり、ついにブッシュ政権も人民元を無視できなくなったのだろう。
人民元は言うまでもなく米国だけの問題ではない。安い労働コストを求める日米欧企業の進出と中国企業の産業技術集積の進展で「世界の工場」となった中国は、強い輸出競争力をもつ。この結果、貿易黒字は積み上がる一方で外貨準備も日本に次ぐ第二位だ。
こうした不均衡は本来なら為替で調整されるわけで、すでに人民元は大幅に切り上げられていてしかるべきなのだ。塩川正十郎財務相が今年二月の先進七カ国財務相・中央銀行総裁会議(G7)で人民元切り上げに初めて言及したのは、このためである。
しかも、このドル安局面で人民元は円、ユーロに対して切り上げどころか切り下がってしまった。中国が新型肺炎問題にもかかわらず、輸出の好調さを維持し続けているのは、ここに大きな要因がある。ドル安に苦しむ日欧の陰で中国は漁夫の利を得たのだ。
米国が人民元切り上げに強い関心を示したことは、日本にとって極めて心強い。中国に輸出競争力に見合った人民元切り上げと通貨改革を迫るには、国際協調が不可欠だ。中国も国際社会で生きるには透明化が必要なことを新型肺炎問題で学んだはずである。
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