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2003/05/22 産経新聞朝刊
【主張】中国工場停止 リスク分散の徹底を図れ
 
 北京にある松下電器産業の工場が、中国人従業員の新型肺炎(SARS)感染で操業を停止した。急激に生産拠点が集中する中国で操業停止が広がり長引くと、部品や製品供給に重大な支障が出る。日本企業は改めてリスク分散戦略を構築する必要がある。
 松下が操業停止したのはカラーテレビのブラウン管と蛍光ランプの二工場で、こうしたケースは日系大手企業で初めてという。これまでSARSによる経済活動への影響は旅行業界や在庫積み増しなどに表れていたが、操業停止ははるかに重大な意味を持つ。
 周知のように日米欧企業の中国への直接投資は中国の世界貿易機関(WTO)加盟前から急増した。とりわけ価格競争力を重視した日本企業は雪崩を打つように生産拠点を移転している。これら企業の技術移転などを背景に一部国有企業も力をつけ、家電分野では世界一企業がいくつも生まれた。
 こうして広東省、上海、北京周辺の産業技術集積は急速に進み「世界の工場」となったわけで、いまやIT(情報技術)家電の部品まで供給するに至った。ここで操業停止が相次ぐと、モノの供給が滞りその影響は一企業、一国にとどまらない恐れがある。
 この“一国集中リスク”は以前から懸念されていたが、それが現実味を帯びてきたのである。松下は一部生産をマレーシアに移管するというから、リスク分散を念頭に置いているのだろうが、多くの日本企業はリスクへの鈍感さが指摘されている。
 その一方で、この操業停止は中国にとっても重大だ。世界企業である松下の判断は他の企業に影響する。もし直接投資に急ブレーキがかかり激減すると、中国の成長を支える大きな柱が崩れ、国有企業改革に伴う失業問題もさらに深刻化するに違いない。
 SARSは中国経済の根幹をも揺るがしかねない問題なのである。情報開示などに努めるのは当然であり、台湾の世界保健機関(WHO)オブザーバー参加に反対したような姿勢では、国際社会の信頼を回復できまい。
 そして日本企業が留意すべきは、仮にSARS問題が去っても、“一国集中リスク”は残るということだ。グローバル経済を生き抜くリスク分散戦略の徹底を求めておきたい。
 
 
 
 
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