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2003/03/20 産経新聞朝刊
【主張】中国新指導部 社会の不公平是正が先決
 
 中国の全国人民代表大会(全人代=国会)が閉会し、胡錦濤国家主席、温家宝首相を軸にした新国家指導部が発足した。全人代の信任投票で、胡、温両氏が99%を超える得票をしたのは、国民の変化への期待の反映にほかならない。国民の期待とは、公正、公平な社会づくりではないか。政治体制を含めた改革を、新指導部に求めたい。
 任期五年の新国家指導者は、昨年秋の共産党大会で内定、全人代の投票で選出される。党の提案が否決された例はなく、反対・棄権の批判票もごく少ないのが通常だ。ところが今全人代では、江沢民国家軍事委員会主席には7.5%、江氏腹心の曽慶紅国家副主席には12.5%の批判票が出た。呉邦国全人代委員長、黄菊副首相ら、江氏に近い人の得票率が低く、呉儀副首相ら中立的な人ほど高得票だった。
 この結果は、「江沢民」と「上海」への批判を意味している。前者は、軍事委主席に留任、側近を取り立てて権力保持を図った江氏個人への批判であり、後者は、格差の拡大や失業者増などで社会不安を招いた、沿海部、大都市優先の成長政策への批判といってよい。高層ビルが林立、リニアモーターカーが走る上海は、その象徴だ。
 胡錦濤、温家宝両氏は昨年の党大会後、農村などを視察、農牧民や炭坑労働者と語り合い、社会的弱者への思いやりを見せた。温首相は記者会見で、中西部の農村対策を第一の課題に挙げ、社会保障制度を農村に広げる考えを示すなど、社会の安定を重視する姿勢が好感を呼ぶ。しかし深刻な財政危機の中で、対症療法には限界があり、現状が大きく変わるとは思えない。
 新政権は、国民の不満が社会の不公正、不公平にある点を考えるべきだ。その典型である腐敗問題の根には、党が行政のみか司法までも牛耳る体制にある。全人代で最高人民法院(最高裁)と最高人民検察院(最高検)報告への批判票が三割近くあった理由だ。
 胡錦濤国家主席は、国の基本に憲法を挙げ、法治主義を強調、法の前での公民の平等をうたう。それには、国民の意見を政治に反映させる制度改革が必要だ。その前に、報道の自由を保障し、監視機能を発揮させるべきだ。指導者選挙を含め全人代議案の得票数も公表しないようでは話にならない。
 
 
 
 
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