プノンペンで開催された東南アジア諸国連合(ASEAN)と日中韓三カ国による四日の首脳会議は、安全保障と経済の両面から中国の積極的な関与が目立った。中国の思惑通り進むと、アジアに大中華圏が形成されかねず、排他的な地域主義につながる危険がある。
中国の朱鎔基首相はこの日、ASEAN首脳と自由貿易協定(FTA)の枠組みで合意し、本格的な締結に向けた作業に入る。中国は日本がシンガポールと結んだ二国間FTA交渉をしり目に、昨年十一月には丸ごとASEANと「十年以内」という目標を設定してFTAの検討をはじめていた。
東南アジアの国々は巨大な中国経済にのみ込まれないために、実際には日本との経済的な一体感を求めていた。しかし、長期低迷にある日本市場は東南アジアの製品を吸収できず、日本企業が投資まで生産コストの安い中国に傾斜させているのが実情だった。
中国は今回、日本と韓国にも三カ国によるFTAの締結を探り、アジアの経済発展に深くかかわってきた日本をあわてさせた。三カ国は九九年の首脳会議で、三カ国研究機関が投資と貿易の協力で共同研究することになっていた。だが朱首相の今回の提案は、農業分野で多国間の自由貿易協定にしり込みしている日本を揺さぶり、経済分野の主導権を一気に握ったといえる。
中国は安全保障面でも、北朝鮮に対する伝統的な影響力を利用して、北の核開発について「米朝枠組み合意」により検証可能な解決による平和的解決で、日本と韓国に歩み寄った。さらに各国が領有権を争っているスプラトリー(南沙)諸島問題でも、中国が主導権を発揮して紛争の軍事的解決の排除を目指す「南シナ海の行動宣言」を打ち出した。
中国はこれらの外交攻勢により、「アジアの覇権狙い」との警戒感をよそに、安保、経済の両面からアジアで主導権を握ったとみることができる。今後、日本は米国やオーストラリアなど域外国と協調して、中国主導のアジア地域主義を阻止する必要がある。
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