中国の軍備増強が止まらない。先に開かれた全国人民代表大会(全人代)で承認された二〇〇二年度予算では、国防費は前年実績比17.6%増で、十四年連続で二桁(けた)の伸び率になった。近年は経済成長率の二倍を超える伸びが続いている。こうした持続的な高水準の国防支出に、われわれは強い疑念と警戒心を抱かずにいられない。
朱鎔基首相が全人代で行った政府活動報告は、国防力の増強を「国家の安全維持と社会主義近代化建設発展の保証」とし、「積極的防御という軍事戦略方針」に基づき、ハイテク条件下における防衛戦闘能力と突発事件への対処能力を強化すると主張している。
敵の攻撃を防御した後、反撃し制圧する「積極的防御」戦略では、あらゆる兵器・装備の充実が不可欠である。過去十余年、中国がロシアから戦闘機や駆逐艦など、各種の先進兵器を購入する一方、自国のハイテク軍事手段の開発・発展に力を注いできた理由である。
国防力の充実は、国家主権の範囲内とはいえ、そこには一定の節度が必要である。中国は世界最大の兵力と核を持つ軍事大国である。その軍備増強の加速は、地域に大きな脅威を与えている。朱首相の報告は「平和外交政策」の継続を掲げ、「周辺諸国との善隣友好協力関係をさらに深める」と強調しているが、それなら国際社会の懸念や批判に耳を傾けるべきではないか。
中国の軍備増強は、一九九〇年代に本格化した。経済の急成長が巨額の軍事投資を支えたが、改革開放支援を主目的にした日本の政府開発援助(ODA)が果たした役割も大きかった。
日本の対中援助は、二〇〇〇年度までに有償、無償合わせ三兆円を超え、インフラ建設から、貧困地区への民生支援まで手厚く実施されてきた。ODAは中国の経済建設を促す一方、本来は中国政府が資金投入し、解決すべき分野まで肩代わりし、その余力が国防費に投じられてきた面がある。
政府は先に、今年度分の円借款を約25%減額する方針を決めたが、中国の市場経済が定着、日本を脅かすほど経済実力を持つに至った今日、ODAの使命は終わった。日本や国際社会の懸念を一顧だにせず、軍備増強を続ける中国へのODAはやめるべきだ。
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