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2002/03/15 産経新聞朝刊
【主張】全人代閉幕 矛盾解決の方策は見えず
 
 中国の国会に相当する第九期全国人民代表大会(全人代)第五回会議は十五日、政府の活動報告(施政方針)や予算案などを採択して閉幕する。全人代は毎年春開かれるが、今年は厳しい国内状況を反映して、例年のシャンシャン大会ムードが消えた。山積する難問は、中国の脆弱(ぜいじゃく)性を示し、現状、将来への楽観論を後退させている。
 朱鎔基首相が行った政府活動報告はじめ、大会での演説、発言の多くには「今年は特別重要な一年」との表現が共通して使われた。これは、世界貿易機関(WTO)加盟一年目で、多くの試練が予想される上、党大会を秋に控え、政府、議会指導部の交代も事実上、決まるためである。指導部に残された時間は短く、問題は多い。
 四年前、三大改革(行政、金融、国有企業)を引っさげ、首相に就任した朱鎔基氏の下で、中国は高い経済成長を維持しながら、市場経済化への改革を進めた。WTO加盟は、その延長線上にある。しかし全人代および並行開催の人民政治協商会議(政協)で指摘されたのは国内矛盾の激化だった。
 昨年、対外貿易は初めて五千億ドルを突破、外資系企業に率いられた輸出が好調を維持した半面、内需は低迷、在庫が増え、デフレ傾向に歯止めがかからない。その結果、企業倒産と失業が急増、労働争議は十万件を超えた。官僚の腐敗、所得格差の拡大、犯罪の激増など社会不安の要因が尽きない。WTO加盟で短期的には、社会矛盾がさらに悪化すると懸念されている。
 中国政府は今年、約三千億元の赤字予算を組み、公共投資で高成長率を維持し雇用を確保するほか、社会保障制度の整備や農村支援など弱者救済に努める方針だ。しかし、今後数年間に、失業率は二ケタになると予測され、農村には一億五千万人の余剰労働力を抱える。長期的対策が迫られている理由だが、全人代では、当面の対応に終始した印象は否定できない。
 中国は経済第一主義の陰で、国内矛盾の拡大とともに、国民の倫理の低下を招いた。日本における中国人の犯罪、不正行為は、中国国内状況の引き写しである。中国が国際社会に歓迎されるには、公正、合理的な政治・社会制度の確立が不可欠だが、その方向性は今回も見えなかった。
 
 
 
 
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