カタールのドーハで九日から始まる世界貿易機関(WTO)閣僚会議で、中国の加盟が正式に決まる。「世界の工場」となった中国が自由貿易の国際的枠組みに入るのは歓迎すべきだろう。その一方で、中国には国際ルールに従った行動を求めたい。
ドーハ会議は新ラウンド(次期多角的貿易交渉)の開始を決める重要な会議だ。その場で中国のWTO加盟が承認されるのは意義深い。いまや世界の貿易は中国を抜きには語れないほど、その存在が大きくなったからだ。
上海や珠江デルタなど沿海部は産業・技術集積の形成と低コストにより電子機械製品まで強い競争力をつけた。この結果、日米とも大幅な対中貿易赤字を抱えているほか、東南アジアは急激な輸出減少に見舞われている。
直接投資もWTO加盟が具体的日程にのぼった昨年後半から中国に集中している。それが日本の産業空洞化懸念や東南アジアの景気悪化の一因となっている。このままでは世界経済がバランスを失する恐れもある。
中国はWTO加盟で貿易障壁をはじめ流通、金融、情報通信分野の規制緩和や資本自由化などが義務づけられる。これは世界の自由貿易進展を促すし、日本の農産物セーフガード(緊急輸入制限)をめぐる報復問題も、WTOの場で解決の道が開けよう。だが、経済関連法や金融・資本市場の改革などはまだまだ不十分だ。
とりわけ問題なのは、安すぎるといわれる人民元だろう。通貨は貿易を左右する重要な役割を果たす。にもかかわらず、人民元は実質的な固定相場で通貨当局の管理下にあり、市場メカニズムとは無縁だ。競争力に見合う水準への人民元切り上げを含め、通貨制度の改革は大きな課題である。
もうひとつ忘れてならないのは、同時に加盟が認められる台湾の問題だ。中国は台湾加盟に対し反対の政治的工作を行ったと伝えられている。台湾は中国への急激な投資で日本以上に産業空洞化が深刻だ。双方ともWTOに加盟する以上、中国は経済問題に政治的な思惑を持ちこむことを厳に慎まなければならない。
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