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2000/10/17 産経新聞朝刊
【主張】朱首相発言 一度も謝罪していない?
 
 朱鎔基中国首相は十七日、日本公式訪問を終えるが、信頼を回復し友好協力関係を推進するとの目的が十分に達せられたか疑問である。その一因は歴史問題へのこだわりにある。とりわけ朱首相が民放テレビ局主催の「市民との対話」で、日本側の「謝罪」がなお不十分との認識を示したことには、失望を禁じ得ない。
 朱首相は、森喜朗首相らとの会談を通じ、西部大開発計画などへの協力を訴える一方、歴史問題については「歴史をかがみに友好を」と深入りを避けた。ところが「市民との対話」では「日本はすべての公式文書の中で、侵略戦争について一度も中国に謝罪していない」と言明、「今回は謝罪を求めていない」としながら、日本人自身が決めてほしいと再考を求めた。
 この発言は「日本にいつまでも謝罪を求め続けるのか」との質問に対するものである。同じ疑問を持つ国民は少なくあるまい。一九七二年の日中共同声明で、過去の戦争に対し「責任を痛感し深く反省する」と表明した後も、日本側は九五年の村山富市首相談話をはじめ何度か謝罪の意思を表してきたからだ。特に九八年の江沢民国家主席訪日の際は、中国側の要求で日中共同宣言に「過去の一時期の侵略」に対する責任と反省を明記し、首脳会談で日本側が「おわび」を表明した。
 中国共産党機関紙「人民日報」社説は当時、日本側の反省とおわびを評価、「これで両国関係が新たな発展段階に入る」と述べ、中国の指導者らも同様の見解を表明したが、歴史問題はそれで決着にはならず、日本の対中感情悪化の要因になった。
 朱首相が訪日前、「信頼を増進し疑いを解く」とし、歴史問題で日本国民を刺激しない方針を示したのは、対中感情の改善が協力拡大に不可欠との認識による。「市民との対話」はそのための重要な舞台だったが、朱首相の発言には、多くの日本人が不信を抱いたろう。朱首相は十六日の記者会見で「謝罪を求めることが目的ではない。歴史を教訓に友好を築くこと」と釈明したが、中国指導部は国内の反日世論の圧力を受けており、歴史問題で軟弱な態度は取り難い状況があるという。
 その背景には、中国政府が対日外交に歴史カードを使い、愛国主義教育や日本軍国主義批判などを続けてきたことがある。朱鎔基首相には、日本が中国との友好協力関係を基本政策にし、政府開発援助(ODA)を含め改革開放を支援していることなどを広く中国国民に知らせ、対日感情を改善するよう望む。日本を「敵役」にしている限り、真の友好協力は不可能だろう。
 
 
 
 
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