米議会下院が、中国の世界貿易機関(WTO)加盟に向けて、継続的に最恵国待遇(MFN)を与える対中正常通商関係(NTR)恒久化法案を可決した。これで中国のWTO加盟問題は大きく前進した。経済のグローバル化がいわれて久しいが、中国が国際貿易、投資ルールをきちんと守り、経済の国連といわれるWTOに加盟することは、世界経済の活性化という観点からみても大きな意味をもつ。
中国は今回の米国のMFN付与恒久化、WTO加盟をめぐる一連の動きについて、二十年来の改革、開放路線で築きあげてきた社会主義市場経済をさらに飛躍させるステップと位置づけている。他方、WTO加盟のためには中国にとって多くの義務がつきまとうことを忘れてはならない。場合によっては社会主義市場経済を資本主義経済へと大きくカジを取る事態を招くことにもなりかねないのだ。
朱鎔基首相は、三月の全国人民代表大会(全人代)で、国内の「産業構造の戦略的調整」を強調した。農業を含め産業を量から質へ構造転換し、国際競争力のある産業を育てようという構想である。しかし、中国経済の内包する問題点を考えると、こうした大転換には摩擦がつきまとい、前途には大きな困難が待ち構えている。
中国の市場には多くの不透明、不公正な問題が存在し、行政の過剰な関与や官僚の不正、法制度や裁判制度の未整備が、進出した外国企業の前に立ちはだかっている。WTOに加盟するならば、中国政府はこれらの問題を解決し、国際的な市場ルールに沿ったものに改めなくてはいけない。市場開放を進めると、非効率な赤字国営企業は閉鎖を余儀なくされ、職員は解雇される。これまで以上の改革、開放は、失業増などの痛みを伴う。
中国経済は、ことし一−三月期には実質八・一%(前年同期比)の高成長を続けている。しかし、マクロ経済面では民間投資需要の低迷や都市と農村の所得格差の拡大などが指摘されている。
米下院は、今回の対中国MFN付与にあたり、中国の人権問題を監視する特別委員会の設置やWTO協定順守の監視を義務づけている。このように中国のWTO加盟は、多くの条件付きの参加なのである。中国加盟が実現すると、経済自由化の進んだ台湾の加盟問題も議論の対象になるだろう。
一方、WTOは次期ラウンド交渉の立ち上げという重要課題を抱えている。こうした複雑な構図のなかで世界貿易秩序をどう維持するのか。日本にとっても傍観してはならない問題だ。
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