中国の共産党体制内での議会にあたる全国人民代表大会(全人代)が十五日、一連の報告や法案を採択して幕を閉じた。私有制経済を初めて公式に認知する憲法改正を打ち出し、改革の旗を改めて高く掲げた昨年の全人代に比べると、今大会は地道で内向きな感じに終始した。朱鎔基首相の政府活動報告も昨年のような個人の創意を感じさせず、政府や党の各部門の意向を集大成して示したという印象だ。
今回の全人代の内向き志向はいまの中国が市場経済拡大に向けての改革を進めるプロセスで、従来の体質の自己改造を迫られた現実の反映だといえよう。共産党一党独裁体制に内蔵されてきた諸問題が改革の推進のうえで障害になるという実態でもある。
全人代で一貫して強調された主要テーマの一つは汚職の追放だった。汚職の急増が発表され、大規模な汚職でかねて死刑判決を受けていた江西省の前副省長は全人代開催にあえてタイミングをあわせて処刑された。全人代自体の常務副委員長の汚職容疑も開会直前に公表された。中国共産党が内部に抱える腐敗の巨大さが期せずして露呈されたわけだ。独裁権力の内部腐敗が改革・開放を阻むことは自明である。
もう一つの主要テーマは「西部大開発」だった。経済水準が極端に低くなった中西部地区の開発を国家優先事業として進めるという新政策である。沿岸部との間で広がった貧富の格差を縮めるのが目的とされる。
だがこの経済格差も沿岸都市部の集中的な工業発展で「富国強兵」を目指す中国当局の基本国策の当然の帰結だった。いま内陸部の大開発を決めたのは、都市部開発や軍事力増強の陰で経済的な犠牲を払わされてきた農民や少数民族の窮状をもはや放置すべきでないとする判断からだろう。貧しく弱い人民を助けるというのは中国共産党にとって道義の再高揚にもつながる。
汚職の追放も格差の縮小もそれ自体は好ましい政策目標である。だがその背後にはどうしても共産党の硬直したままの政治統治と、市場経済の柔軟であるべき改革・開放とがぶつかって生まれるひずみがちらついてみえる。このひずみはなお中国の国家としての行方の不確実性を象徴している。
中国政府は中西部開発にはすでに日本の大型援助への期待を表明している。貧しい地域の救済というのは政府開発援助(ODA)の目標としては一見、説得力を持つ。だが中西部の遅れは、中国政府のこれまでの沿岸部開発や軍事増強の偏重という計算された政策の産物であることを銘記しておくべきであろう。
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