中国政府は、二〇〇〇年度予算案では国防費が前年度当初予算比の一五・一%という連続の大幅増になることを発表した。実際の金額で一千二百五億元(約一兆五千七百億円)という国防費はここ十二年、一貫して二ケタ増で、今年度予算全体では一三%を占める。この伸びだけでも中国が市場経済の拡大と同様の熱意を軍事力の増強に注いでいることが明白だが、公式発表の数字はなお軍事力増強の実態の一部しか明らかにしていない。
周知のように公表国防費は兵器の開発や生産の経費などを含まず、実際の軍事経費は公表分の三倍から八倍というのが外部の専門家の一致した見解である。核兵器や長距離弾道ミサイルの開発、ロシアから調達した迎撃戦闘機スホイ27のライセンス生産など、みな公表分には入らないことになる。
軍事全体が秘密のベールに包まれるため、公表国防費は中国の軍事の意図やドクトリンの表明とはならない。この点は日本や米国など民主主義国との基本的な違いである。中国軍部はハイテクはじめ各種の商業活動に手を広げ、巨額の資金を動かしてきた。最近、そのビジネスが表面的には規制されたが、資金面の現状がどうなのか、公表国防費はなにも語らない。
中国の軍事力はこの不透明性を考慮し控えめにみても、新鋭兵器の開発の実例を眺めるだけで着実で顕著な増強が歴然とする。台湾への武力攻撃の準備は中国には重要なのであろう。だが中国自体への軍事脅威は中国の長い歴史でも現在ほど少ない時期はない。脅威の最も少ない時に近代史上でも最も顕著な軍事増強をなぜ続けるのか。
中国の軍事動向は、尖閣諸島の領有やシーレーン安全確保からみるだけでも日本にとって重大な意味を持つ。だが日本の政府も政治指導者も中国の軍事動向を正面から論じることを避けがちである。一部には中国の軍事増強の客観事実の指摘を「中国脅威論」として他人事扱いする向きさえある。
まず緊急な課題は、年間四千億円にものぼる日本の対中資金援助の再考である。政府開発援助(ODA)と旧輸銀の公的資金供与の両方だが、いずれも中国の総合軍事力の増強につながる高速道路、鉄道、空港などのインフラ建設に提供されている。贈与に近い巨額の資金提供が、中国側の軍事支出を容易にする効果も自明である。
日本政府のODA大綱は援助提供にさいし「軍事支出や大量破壊兵器の開発の動向に十分、注意する」ことを明記している。中国の場合、この「注意」を実際のODAに反映させるのは遅きに失するくらいだろう。
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