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1999/11/24 産経新聞朝刊
【主張】中国宇宙船 日本の援助は必要なのか
 
 中国の宇宙船「神舟」打ち上げ成功という画期的な動きは、日本の対中政策という観点からも考えさせられるところ大である。
 中国の各種官営マスコミはこの宇宙船打ち上げを「旧ソ連と米国に次ぐ世界第三の歴史的な偉業」と自賛した。「中国の国力と国防力を強め、人民の誇りと自信を高める大飛躍」とも宣伝し、「世界第一級の高度技術と宇宙産業の証明」と力説した。宇宙船打ち上げ自体が、中国が全世界でも先頭に立つ超大国の座を目ざすことへの決意の例証として強調されたのである。
 しかもこの宇宙船打ち上げは軍事的意味が濃い。米ソ両国の例から明白なように、宇宙船打ち上げは長距離弾道ミサイルの発射技術と密接にかかわるだけでなく、宇宙を利用するハイテク兵器や軍事通信網の開発とも表裏一体になっている。このへんの実情は冷戦中の米国のSDI(戦略防衛構想)の展開を想起すれば自明である。
 中国共産党中央も今回の打ち上げ成功の祝電を人民解放軍総装備部や国防科学技術工業委員会あてに送り、宇宙船の軍事的効用を自ら宣言した。官営マスコミの一部は「打ち上げの成功は中国がTMD(戦域ミサイル防衛)を打破する技術を保持することを誇示した」とまで明言している。
 中国は今後、有人宇宙船の打ち上げへと歩を進めるというが、具体的な実態は秘密に包まれている。全体の経費も隠されたままだ。経済面では貧しい開発途上国を自称する中国が、なぜこれほど巨大で、これほど軍事的威力を持つプロジェクトの推進に懸命になるのか。日本にとってのこの問いへの解答の模索は、従来の対中認識の根本からの見直しを迫ることとなろう。
 日本がその見直しの当初でまず直面するのは、軍事超大国志向のこれほど露骨な中国になぜ毎年二千億円もの援助を贈り続けねばならないのか、という疑問である。核兵器を開発し、大陸間弾道ミサイルを増強し、いまや軍事効用の高い宇宙船までを打ち上げる中国に、医療保険制度が破たんの危機に瀕する(ひんする)ほど財政事情の苦しい日本が、なんのために国民の貴重な公的資金をODA(政府開発援助)の名の下に供与する必要があるのか。こうした疑問に日本政府はいまや正面から答える責務がある。
 過去二十年間、総計すれば三兆円に近い日本の対中援助が、中国に宇宙船打ち上げをも含む軍事増強への余力を与えてきたことも、もはや否定できまい。対中政策の見直しは、対中援助にからむこうした疑念への真剣な取り組みから始めるべきであろう。
 
 
 
 
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