中国が新しいミサイルの発射実験をした。射程八千キロ、固体燃料方式で核弾頭を搭載する「東風31号」とみられる。中国は、この実験について「必要な国防力の開発は、国家の主権と領土を守るためで、いかなる国にも脅威となるものではない」としているが、周辺諸国にとって、中国の核戦力増強が脅威にならないはずがない。わが国には、北朝鮮ミサイル以上の重大な脅威と受け止めざるを得ない。
中国の「国家主権を守るためだ」という論理は、北朝鮮の主張する「ミサイル開発は自主権の問題」と同じである。しかし、北朝鮮より何倍もパワフルな中国が、一方では先ごろの東南アジア諸国連合(ASEAN)の会議で、東南アジア非核地帯条約の付属議定書(核兵器の使用、核兵器による威嚇はしない)への署名の方針を明らかにしながら、他方では核戦力を背景にした国家戦略をまっしぐらに突っ走っている現実が明らかになったのである。これでは、中国の主張を額面通りには受け取れない。それだけに巨大な脅威も意識しないわけにはいかない。
「東風31号」に組み込まれている弾頭はことし五月、米下院のコックス委員会が「中国は米国の核弾頭小型化技術を盗み、それを新型ミサイルに搭載しようとしている」と指摘した問題の弾頭である。また、「東風31号」の射程は米本土の一部に達するため、米中関係はさらに複雑さを増していくだろう。アジアでも、領土問題などで核の能力を背景にしたパワーポリティクスが展開されていくと思われる。
スプラトリー(中国名・南沙)諸島のような力を背景にした領土紛争が、わが国に及ばないよう配慮する必要も生じる。尖閣諸島については、これまで以上に「日中間に領土問題は存在しない。尖閣諸島はわが国固有の領土である」という主張を、諸外国にアピールしていきたい。領土問題では、外国に乗ぜられるようなスキをつくってはならないのである。
第二は、直接的な脅威である核ミサイルに備えるために、米国との戦域ミサイル防衛(TMD)開発に一層の努力を注ぐことだ。防御手段があれば、脅威が脅威でなくなるからである。中国はこれまでも、「TMD開発は、新たな軍拡を招く」と反対してきたが、中国流にいえば、これこそ「主権の問題」であり、しかもまったく攻撃性のない防御手段なのである。
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