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1998/12/01 産経新聞朝刊
【主張】江沢民主席離日 後味の悪さは何だったのか
 
 六日間にわたる江沢民・中国国家主席の日本訪問が終わった。国家元首として有史以来初の記念すべき訪日だったが、日本外交に解決すべき課題を残したのも事実である。訪日が後味の悪さをもたらしたとすれば、あらゆる機会を通じて「過去」を取り上げ、「正しい歴史認識」を日本側に迫った江沢民主席に対し、なすがままに黙過した日本側の対応にも原因があったといわなければならない。
 共同宣言では「平和と発展のための友好協力パートナーシップ」が打ち出された。二十一世紀を目前に、日中関係の抜本的改善が必要であることに異存はないものの、滞日中の一連の発言との落差はどういうことか。米紙(NYタイムズ)は「逆に対立に火をつけたようだ」と論評しているほどだ。
 江主席は首脳会談や各界との会見をはじめ、宮中晩餐、早大講演、日本記者クラブでの記者会見など、ほとんどすべての場で「過去」に言及した。とりわけ、宮中晩餐では、天皇陛下が未来志向のお言葉を述べられたのに対し、「日本軍国主義は対外侵略拡張の誤った道を歩み・・・」などと発言、その異様な違いが浮き彫りになった。いたるところで「前事を忘れず、後事の戒めとする」と繰り返したのだ。
 われわれはすでに何度も触れてきた通り、歴史認識に関しては、一九七二年の日中共同声明、七八年の平和友好条約などで決着ずみと考える。半世紀前のことを何度となくむし返し、謝罪と反省を反復するというのは、おそらく世界史でも希有のことではないか。例えば、アヘン戦争以来百五十年にわたって香港を植民地支配してきたイギリスが、中国に対して謝罪や反省を繰り返したという話は聞いたことがないのである。
 江主席がこの訪日で日本側に厳しい態度を貫いたのは、政府や党の強硬派を納得させ、政権基盤を固めたいという国内事情によるもの、といった解説もある。日本が負い目とする「歴史」を執拗に使うことで、外交的・心理的優位を確保するという戦略でもあるのではないか。
 これまでとは違い、日本側がかなり“押し返した”場面があったことも事実だろう。とはいえ、日本側にも、もっと強く言うべき主張は多々あるはずだ。とりわけ中国の軍拡傾向、あるいは台湾問題をめぐる武力行使の可能性への危惧の念について、中国側の「過去」言及に匹敵する重さで繰り返されてしかるべきだったのではないか。対等な対中外交戦略を構築しなければ、「友好協力パートナーシップ」は絵空事になってしまうのである。
 
 
 
 
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