開会中の中国全国人民代表大会(全人代=国会)は十七日、李鵬首相に代わり朱鎔基副首相を首相に選出した。前日には江沢民国家主席の再選、李鵬首相を国会議長に相当する全人代常務委員長に選出しており、これにより「江−李−朱」三極による新指導体制が正式に発足した。とくに、朱氏は文字通り「満を持して」首相のポストを手にしたことになるが、中国が直面する厳しい課題にどれだけ指導力を発揮できるか正念場である。
朱氏は副首相時代から中国の経済運営を実質的に切り回してきたが、頭角を現したのは八八年から三年間、そのポストにいた上海市長時代だ。当時、上海市共産党委員会書記をしていた江沢民主席と組んで国家プロジェクトの浦東開発を推進し、約百五十億ドルの外資を引き込むなど強力な手腕をみせた。これで朱氏には「経済の分かる男」との評価が定着し、今回の首相昇格となったが、中国としても朱氏の手腕に頼らざるを得ないのも現実なのだ。
しかし、さしもの朱氏も現在の深刻な事態を混乱や失敗なく処理するのは並大抵ではなかろう。たとえば、昨年九月の共産党大会で打ち出され、今回の全人代で確定した国有企業の改革は朱氏の足元をすくいかねない危険をはらんでいる。約六万八千社に上る国有企業のうち、半数近くが赤字にあえぎ、改革では、この大部分を整理淘汰し、少数の業績がよい企業に絞って再建を進めるという。が、香港の株式市場の低迷から整理に必要な資金一兆元調達のメドもたたず、下手をすれば、計画倒れになるとの指摘もある。
もっと懸念されるのは、国有企業の整理に伴い、今後、予想される約千万人の一時帰休者や失業者、さらには全人代で打ち出された中央省庁の再編による幹部八万人の半数削減などで浮上する失業問題だろう。朱氏がこの処理を誤れば、社会不安すら惹起しかねないだけに真価が問われるところだ。
先の共産党大会では、中国は依然、「社会主義初級段階」にあると規定されたが、この問題を象徴する内陸部と沿岸部の経済格差をどう調整するかも朱氏の前途に立ちはだかる難問だ。全人代では、この問題はあまり討議されなかったが、党の路線に関係するだけに、朱氏も頭が痛いのではないか。
国際的にも、「人民元切り下げせず」の公約順守をいつまで続けられるかという問題がある。国内の輸出産業の“圧力”に屈して切り下げれば、アジア経済に深刻な打撃となろう。内外から難問に包囲されたかたちの朱氏がどう立ち向かっていくのか、国際社会は注視せざるを得ない。
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