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1999/02/06 産経新聞朝刊
【主張】中国ノンバンク 国の責任で危機の阻止を
 
 中国広東省の「官営ノンバンク」である広東国際信託投資公司(GITIC)に対する北京政府の破産法適用という強引な処理をきっかけに、連鎖破たんの懸念が強まっている。この影響が国内にとどまっているならいいが、国際金融システム上の問題に発展するようだと看過できない。
 中国のノンバンク約二百四十社は、多くが省や市の地方政府、国有企業、中国工商銀行など四大国有商業銀行の支店が実質的な経営主体。とくに地方政府は、これをさまざまなビジネス展開のための資金調達の“隠れみの”として使い、利権の温床ともいわれる。それがバブルの崩壊で多額の不良債権を抱え、今日に至っている。
 中国は朱鎔基首相の陣頭指揮で国有企業、金融、行政の三大改革を強力に進めており、その意味では今回の処理は当然の帰結であろう。ノンバンクに融資している邦銀を含めた海外金融機関は、北京が支援を拒否し破産法を適用したことについて、「最後は国が面倒をみる」との従来方針を突然変更したとして問題にしているが、必ずしも説得力を持たない。
 海外金融機関は確かに方針変更で債権確保が困難になり、大きな損害を被る。だが、北京にこうした地方の融資呼び込み戦略を黙認してきた責任はあるものの、確約はしていない。海外金融機関がこれまで多くの利益を得たことと、中国ビジネスのリスクを過小評価した側面も指摘せねばなるまい。
 ただ、これが国際金融を揺るがす火種になるようだと話は別だ。すでに海外金融機関は他のノンバンクから融資回収の動きをみせ、連鎖破たんの兆候が出てきた。市場ではこれに進展しない四大銀行の再建問題をからめ、中国全体の信用不安加速とみて、人民元切り下げ論が再燃、香港ドルへの売り圧力も高まってきた。
 人民元が切り下がれば、まだ経済危機から立ち直っていないタイ、インドネシアなど東南アジアの輸出条件を悪化させ、さらなる通貨切り下げ競争という混乱を生む。香港ドルが攻撃されれば、株が暴落し世界の市場に波及する。一昨年秋の香港株式市場暴落が世界同時株安につながったことは記憶に新しい。
 中国は香港返還により、国際金融メカニズムの中に完全に組み込まれた。たとえ改革の方向が正しくても、それが国際金融に重大なリスクをもたらすなら、緊急避難措置が必要になる。場合によっては、ノンバンクといえども公的資金投入を含め、国の責任で処理せねばならない。それが国際金融社会で生きるための責務である。
 
 
 
 
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