中国の国会に当たる第九期全国人民代表大会(全人代)が五日、北京で開幕し、李鵬首相が政府活動報告を行った。アジアの経済危機の余波が押し寄せかねない逆風の中での全人代となったが、活動報告は「成長率八%、インフレ率三%以内」と高めの成長を続ける方針を明らかにしたうえ、「人民元の安定を堅持する」と人民元を切り下げない決意を表明した。
この決意表明はアジア経済の安定には大きなプラス材料だが、中国にとっては人民元高による輸出の大幅減少という“出血”を余儀なくされるだけでなく、公約した経済の八%成長にもブレーキがかかりかねない危険もはらんでいる。
また、この決意表明を裏返せば、中国が高成長を維持しながら、アジア経済の“安定役”を引き続き演じていくことを国際社会に公約したことにもなる。ただ、この公約実現には国有企業、行政機構など中国経済のアキレスけんに改革のメスをいれ、経済体質を強化することが不可欠だという点を指摘しなければならない。
活動報告でも、国有企業改革の推進が「当面の経済体制改革の重点」と最重要課題として取り組む姿勢を明らかにしたが、大中型の国有企業約一万六千社の半数以上が赤字という厳しい現実を前にどこまで踏み込めるか。今回の全人代で李鵬首相に代わり、首相昇格が確実といわれる朱鎔基副首相の手腕が注目されるところだ。
国有企業改革と並んで、もう一つの頭が痛い問題は失業問題だろう。すでに、約千二百万人もの失業を抱えているところへ、全人代で打ち出される中央省庁の強力なリストラ策や国有企業改革に伴う人員整理などで新たに約千万人の失業者が出るとの専門家の指摘もある。活動報告も失業者の再就職や生活保障の実現をはかっていくことが「政府の最優先任務」と位置付けたが、失業問題の処理を誤ると社会不安を招きかねないだけに、全人代で選出される新指導部は鼎(かなえ)の軽重を問われよう。
中国は世界貿易機関(WTO)に未加盟など、国際的な経済体制に組み込まれている状況にはまだない。その中国が国際的な相互依存関係を深めていくには、活動報告に盛り込まれた経済指標や国防費などの不透明な数字をまず改善することだ。不透明なままに経済活性化について多弁を弄しても、国際社会の信頼は得られないということを知るべきであろう。と同時に、透明性の確保が経済をグローバルスタンダード(国際標準)に近づける道であることをも知ってほしい。
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