ロシアのエリツィン大統領は江沢民中国国家主席(共産党総書記)とモスクワで会談し、両国が米国の「一極支配」に反対して「世界の多極化と新たな国際秩序を推進する」ことで合意した。共産党独裁のソ連を倒したエリツィン大統領が、なお共産党独裁を続ける中国と手を結ぶことは展望のない孤立化の道にはまることを意味し、日本としてはこの中露提携の行方を厳しく見守らねばならない。
エリツィン大統領は国内で民族主義、共産党勢力の圧力が大きくなるたびに北京を訪問するなど中国との絆を強めてきた。かつての中ソ同盟の惰性に引きずられ、対中関係はきわめて便宜的に利用されてきた面もあった。
だが、今回は北大西洋条約機構(NATO)拡大に反対するロシアと、日米安保同盟に反対する中国が米国、日本、西欧を目標に二十一世紀を視野に据えて関係強化を決めたもので、国際情勢への影響は少なくない。
ロシアは先進国首脳会議に迎えられながらも、かつての超大国の特権の味を忘れられず、国際関係において不断の欲求不満にさいなまれている。それがこうじて中国との関係強化に向かったわけだが、これによってロシアの抱える難問の解決が容易になる見通しは一切ない。
共産党独裁が歴史のくずかごに捨てられる流れはいずれ中国にも及ぶことは避けられない。新疆ウイグル自治区の民族紛争は中国の激動の兆候かもしれない。ロシアが欧米の民主主義諸国や日本と対立してまで、こうした国家との関係強化に走ることは歴史の流れを見誤るものだ。
また、エリツィン大統領と江沢民国家主席は発展途上国、非同盟運動と連携して世界の多極化に努めると宣言したが、両国が発展途上国を糾合して、その力を利用して国際的な地位低下をくい止められるなどと考えたら、時代錯誤もはなはだしい。
ロシアに望まれるのはひたすら強大な軍事力のみによって米国と肩を並べ、「両超大国」といわれた旧ソ連時代を忘れることである。NATO拡大についても横やりを入れれば入れるほど、旧ソ連時代に植民地扱いしていた中東欧、バルト諸国の目にロシアの脅威を強めるだけである。
なぜロシアは脅威とみなされるのか。ロシアの当局者はこの点を真剣に反省するべきである。ロシアの繁栄と未来は西側世界への接近にある。ロシアが捨て去った体制の中国との関係強化は歴史的な誤りである。
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