北京で開会中の全国人民代表大会(国会)への報告で、中国の九七年度国防予算が前年度当初予算比一五・四%増加されることが明らかにされた。赤字財政が続き、「引き続き適度の財政引き締め政策の実行」が求められている折に、昨年度に一度は落ち込んだ伸び率が再び上昇に転じた。歳出全体の伸び率を下回っているとはいえ、江沢民政権が人民解放軍に手厚い対応をしている結果である。
国防予算の増加は物価上昇に伴う部分や、今年は七月の「香港の祖国復帰」があるため香港の治安維持費が新たに計上されたのではないかとの見方もある。だが、中国軍事力の脅威が近年しきりに日本など周辺国家から指摘されているにもかかわらず、今年も、政府当局者の口から、国防費を突出気味に増加させていることについての明確な説明はなされなかった。政権はそうした周辺国家の懸念に一顧だにせず、軍事力増強の道をまい進していると判断されても仕方がない。
中国の国防費には不透明な部分が多い。人件費や装備費などが一般国防費に含まれているとされるが、軍の日常的な運営や兵力・軍事訓練の実態、あるいは長期的な戦略方針といった基本資料が公開されていない。経済建設と一体で軍事力整備を遂行している中国では軍事と経済の境界線が不明瞭であるため、政府としても公表したくても公表できないのかもしれない。
そのうえ、今年度の国防費は中央予算だけで地方分は発表されず、中国の国防費はますます不透明感を強めた。この措置は「信頼醸成」を目指して日本政府が求めている「国防費の透明化」に逆行する動きである。こうした中国政府の一連の措置を日本政府は厳しく受け止めるべきである。
トウ小平氏によって抜てきされた江沢民氏を中核とする現政権は誕生以来、権力基盤を人民解放軍に求めている。しかし、依拠している軍部には自らの指導力がいまだに確立されていないのではないか。このため、軍事指導者の支持が不可欠であり、その見返りとして国防費増加などの要求があれば、それを拒否することは不可能なのであろう。慢性的な財政赤字のなかで、九年連続の国防費増加は、改めて江沢民政権が軍事政権化しつつある実態を証明していると見るべきである。
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