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1997/02/22 産経新聞朝刊
【主張】対中投資は透徹した目で
 
 改革開放路線を推し進めてきたトウ小平氏の死去により、今後の中国経済に関心が集まっている。この路線が長期的にみても“帰らざる河”であることは、大方の意見の一致するところである。が、対中ビジネスとなれば、一筋縄ではいかない。それをもう一度、確認しておく必要がある。
 改革開放政策は、常に改革派と保守派の政治的せめぎ合いを投影し、「放」と「収」を繰り返してきた。開放を意味する「放」が行き過ぎれば、最大の政治問題でもある沿海部と内陸部の経済格差が一層開き、インフレも高進する。そして引き締めである「収」に入ると、深刻な赤字を抱えリストラ・民営化が迫られている国有企業が耐えられず、失業が政治問題化する。
 この矛盾を引きずりながら“薄氷のバランス”をとっているのが、経済運営の実態なのだ。しかも、社会主義下の市場経済である。物理的インフラだけでなく、制度的インフラの未整備・混乱もある。労働力の移動は厳しく制限されているし、「放」が行き過ぎたため、この二、三年、税制を含め一方的に外資優遇制度を変更した。欧米では想像もできないトラブルが起きるのは、このためだ。
 日本企業もこの波にのまれ、撤退を余儀なくされたところも多い。経営不振に陥ったヤオハングループも、中国への急傾斜が原因といわれている。こうしたことから、ひところの中国熱はおさまり、欧米企業を含めて対中直接投資の伸びも減速している。正常な姿に戻ったのだろう。
 中国は今、再び「収」から「放」に入る兆しをみせている。依然高水準ながらも物価は落ち着き、上海などの不動産価格も大幅に下落したからで、国営企業支援を視野に入れた若干の金融緩和にも踏み切った。香港返還に合わせた大型の景気拡大策をとるとの見方もある。だが、地域間経済格差と国営企業改革に目立った成果がみられない以上、政治的混乱から“薄氷のバランス”を失う危険性は、常にはらんでいるといえよう。
 「二十一世紀は中国の時代」という世界銀行の報告があったが、所得上昇が目覚ましい経済特区周辺だけでも、すでに市場は魅力的である。中国に限らず開発独裁経済にリスクは付き物だし、リスクを取らなければ企業の発展もない。対中投資はそのリスクの大きさを測り、かつ利益に結び付けられる戦略性をもっているかどうかが重要になる。不可欠なのは、企業家の透徹した目とリスクへの覚悟だろう。
 トウ=登におおざと
 
 
 
 
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