日本財団 図書館


1995/08/26 産経新聞朝刊
【主張】中国の軍事行動を見張れ
 
 今月中旬、中国の戦闘機とみられる二機が尖閣諸島に接近し、航空自衛隊のF4戦闘機がスクランブルしていたことが明らかになった。二機は、航跡、速度などから中国の戦闘機スホイ27だったと考えられている。このできごとに対する反応は全般に鈍かったようだが、わたしたちは、東シナ海に対する中国覇権主義の“兆し”として、敏感に受け取らねばならないだろう。
 中国戦闘機は、自衛隊防空指令所からの通告を受けて反転、わが国の領空を侵犯したわけではない。しかし、領空から約三分の距離までまっすぐ近寄ってきたことは、わが国領土の尖閣諸島を目指そうとした明確な意思が感じ取れる。スクランブル前日の八月十五日から、中国海軍を含めた演習が東シナ海で繰り広げられていた。中国軍機の動きはそれと連動したものだったかもしれない、あるいはまた演習にかこつけて、日本の反応をうかがいに来たのかもしれない。だが、いずれにしても、中国の動きを注意深く見守らねばならないわけがわが国にはあるのだ。
 昭和五十二、三年ごろ、多数の中国漁船が尖閣諸島に押し寄せて領海侵犯し、パトロールしていた海上自衛隊の哨戒機が発見、大騒ぎになった。結局、漁船は退去し、五十三年十月に来日した当時副首相だったトウ小平氏は、この問題について「(尖閣諸島の領有問題は)一時タナ上げしてもかまわないと思う。十年タナ上げしてもかまわない。次の世代はわれわれよりもっと知恵があるだろう。そのときは、みんなが受け入れられるいい解決方法を見いだせるだろう」といっていた(同月二十五日の記者会見)。
 いわゆる尖閣タナ上げ論であり“トウおじさん”の提案は、拍手で迎えられたものだった。しかし、そのときと、いまとでは事情がまったく違っている。中国は三年前の二月、新領海法を公布し、スプラトリー(中国名・南沙)諸島と尖閣諸島を中国領土に組み入れてしまったのである。トウ小平氏のいう“知恵”なのだろうか。
 いまもし当時と同じように漁船が押し寄せて漁民が上陸し、海上保安庁が強制退去させようとしたとき、中国は自国民保護の名目で軍隊を派遣する法的根拠を得たともいえるのである。そうした背景の中での中国戦闘機飛来であれば、その狙いがどこにあろうとも、わたしたちは、中国の行動をより真剣にとらえなければならないと思うのである。安全保障は、周辺情勢に鋭く反応していなければ、保っていけないのではないか。
トウ=登におおざとへん
 
 
 
 
※ この記事は、著者と発行元の許諾を得て転載したものです。著者と発行元に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど、著者と発行元の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。








日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION