「性懲りもなく」という表現を冒頭から使いたくなるほどに中国の人民解放軍は、今年七月の予告付きミサイル演習から数えて四度目の演習を台湾の対岸の福建省沿海で行った。しかも今回は陸海空三軍合同による大規模な上陸演習であること、さらにその模様を映像で初めて世界に公表したことなど事後の取り組みも異例である。
映像は台湾海峡を管轄する南京軍区(戦時並みに「戦区」と呼称)の歩兵や戦車部隊が海岸線に上陸したり、落下傘部隊が降下したりする様など人民解放軍の威力をここぞとばかり見せつけた。明らかに来月二日の台湾・立法委員選挙、とりわけ台湾独立派への武力行使も辞さじの示威であろう。しかし中国は「民主化台湾」を恐れるあまりのこうした行動が、意図とはまったく逆に米国はじめ世界の世論を敵に回すことをまず悟るべきである。
中国はかねてより、来年三月の台湾・総統選挙に強硬に反対してきた。中国数千年もの歴史で、直接投票という民主的選挙によって最高指導者が選ばれるのは初めてのことであり、その画期的意味と大陸への影響をもっともよく承知するからに違いない。とりわけ中国軍部は江沢民国家主席ら現指導部の台湾政策に強い不満を有しているとも伝えられる。ポストトウ小平体制を目前に不透明さを有する江沢民体制下では軍部の強硬路線を阻止できず、来年三月まで中国の台湾に対する様々な威嚇・妨害が予想される。
しかしこうした強硬策は国際世論を敵に回すのみならず、地域一帯をますます危険水域にするということだ。中国が想起すべきは米国の台湾関係法である。同法は台湾の将来を非平和的手段で決定するいかなる試みも西太平洋地域の平和、安全への脅威と見なし、米国が重大な関心事と考えること、台湾の人々や社会、経済体制を危機にさらす武力行使などには米国が抵抗する能力を維持することを明記している。
さらに日米安保条約も併せて念頭に置かなければならないだろう。同条約は極東有事の範囲をフィリピン以北と定めている。米国がこれらを根拠に第七艦隊を派遣しなければならないような事態が起きた場合、どのように対応するのか。そうした事態を回避するためにも、中国にはよくよく自制を求めたいのである。
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