日本と中国の間で一九九六年以降の第四次円借款交渉が進行中だ。中国側は第三次円借款(九〇年から六年間で八千億円)の倍近い一兆五千億円(現レートで約百五十億ドル)を要求している。湾岸戦争時に拠出した百三十億ドルをも上回る額だ。有償とはいえこれほど巨額の資金協力を続けるのは果たして妥当か。さまざまな要素を考慮して見直すべき時期を迎えたと言えよう。
第一の問題点は、これが日本の外交政策の信頼性と実効性にかかわることである。九二年に定めた政府開発援助(ODA)供与に際しての四原則では「軍事支出、大量破壊兵器、ミサイルの開発・製造、武器の輸出入などの動向に十分注意を払う」としている。「民主化の促進や基本的人権・自由の保障状況」もそのひとつだ。
これらの原則を厳格に適用すれば、中国は援助対象国として不適格だろう。なぜなら、中国の軍事支出は一九八八年以降一〇%台の高い伸び率を示し、最近では二〇%前後に達するという。他の核保有国が自制する中で核実験を繰り返してもいる。これまで通算四十一回、今年に入っては六月十日と今月七日に実験を行った。
南シナ海域を中心に多くの国が中国の軍事的脅威を感じている。第三世界に対する大量の武器輸出、国内の人権抑圧と少数民族圧迫に対する自由諸国の不信感は依然として弱まらない。
河野洋平外相は九月の国連演説でもODA四原則を重ねて表明した。全面核実験禁止条約や通常兵器移転の透明性確保を求める日本の軍備管理・軍縮提案を裏打ちする政策だからだ。世界一のODA大国であればこそ切れるカードなのに、対中援助政策がこれまで通りなら、日本のODAに大きく依存する他の開発途上国の軍拡などに対しても有効なブレーキにはなるまい。
第二は中国自身の経済発展が目覚ましいことだ。九二、九三両年の経済成長率は一三%に達し、二十一世紀初めの中国の国内総生産は、日独はおろか米国をも追い越すという予測もある。もう自助努力を求めてよい時期だ。
第三は日中関係が大きく変化したことである。中国が常に神経をとがらせてきたのは、日本と台湾の間の貿易額が日中間を上回ることだった。昨年やっとそれが逆転し、日台三百億ドルに対し日中三百七十八億ドルに達した。日中経済関係がこれほど濃密になった今、むしろ重要なのは七二年の日中共同声明の原点に戻り、純然たる内政への相互不干渉を双方が確認し合い、節度ある両国関係を心がけることだろう。
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