フィリピンが領有を主張してきた南シナ海・スプラトリー(中国名・南沙)諸島のミスチーフ礁に、中国がコンクリート製施設を建設していた。フィリピン当局は軍事施設だといい、中国は漁民の避難所だと主張しているが、いずれにしても中国は覇権の輪をじわりと広げてきた。わが国としても、中国の今後の動静を注意深く見守る必要があるだろう。
戦後領有権があいまいになったスプラトリー諸島は、フィリピン、中国、台湾、ベトナム、マレーシア、ブルネイが、それぞれの領有権をいいたててきた。九二年にASEAN外相会議が、領有権を棚上げする「南シナ海宣言」を採択したが、中国は、同年二月の領海法でスプラトリーを中国領土に組み入れてしまったいきさつがある。
今回の紛争で、わが国はふたつのことに注目しなければなるまい。ひとつは、紛争の拡大である。中国が軍艦を派遣して軍事施設を建設していると見たフィリピンは、虎の子のF5戦闘機を差し向けて牽制した。いまただちに両国の関係が極端に悪化するとは思えないが、武力行使を伴うデモンストレーションには、予期しない偶発事故が起こりやすい。紛争がホットになると、石油輸送などわが国の生命線が脅かされる心配がある。
もうひとつは、経済権益と抱き合わせになった中国の覇権拡大意図である。東シナ海、南シナ海は、石油などの地下資源に恵まれ、発展途上の中国はその開発にことのほか情熱を傾けている。そして、経済権益保護のためには、軍事力の行使も辞さないといってきた。こうした経緯とミスチーフ礁のケースを考え合わせると、わが国固有の領土である尖閣諸島までもが、きわどい垣根に隣り合っていると考えなければならないだろう。
杞憂(きゆう)などではない。十数年前、多数の中国漁船が尖閣諸島に押しかけ、上陸の機会をうかがったことがある。そのときは日本側が騒いで、ことなきをえたが、同様の侵犯が再び起こったらどうなるか。スプラトリーと同じく、中国は九二年以降、尖閣諸島を自国の領土と宣言している。上陸を企てた漁民を、日本側が実力で排除しようとすれば、中国は軍艦を派遣してくるにちがいない。わが国は、紛争解決のために自衛隊を出動させる勇気があるだろうか。逡巡しているうちに、尖閣諸島はどこやらの領土に組み入れられてしまう。スプラトリーでのやり口を見るにつけ、そうした憂慮をわたしたちは覚えるのである。
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