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2003/03/19 読売新聞朝刊
[社説]中国新体制 「責任大国」に問われる建設的役割
 
 中国の全国人民代表大会(全人代)で、政府の新しい首脳が決まった。
 昨年十一月の共産党大会で総書記に就任した胡錦濤氏が江沢民氏に代わって国家主席(国家元首)に選出され、温家宝副首相が朱鎔基首相の後任に選ばれた。
 共産党政権における、いわゆる「第四世代」が要職を占め、指導部の世代交代が実現した。しかし、「第三世代」の中でただひとり、江氏が国家中央軍事委員会主席にとどまった。しばらくは江氏の「院政」が続くものとみられる。
 当面、共産党の一党独裁体制下で経済発展を最優先するという国造りの基本に変化はない、と見ていい。
 ただ、急速な経済発展に伴う負の遺産でもある所得格差や地域格差、党官僚の腐敗がますます深刻化し、国民の不満は高まっている。新指導部はまず、こうした問題への対応を問われる。
 全人代の投票で、胡、温両氏はきわめて高い支持率を得たが、江氏および江派とされる指導者への反対・棄権票が少なくなかった。
 権力の座に居すわった江氏への反発を物語るものだ。党の指導ポストから降りた江氏が、軍のトップを占めるという変則人事への批判でもあろう。
 反面、胡、温両氏への高率の支持は、新しい治世への期待を示すものだ。その期待に応えるためにも、これまで事実上棚上げされてきた政治改革を積極的に推進すべきだろう。
 新指導部は外交の場でもその手腕を問われることになる。
 全人代と時期を同じくして開かれた国連安保理では、米英と仏独露がイラク問題をめぐって鋭く対立した。
 常任理事国でもある中国は、査察の続行を主張して米英を牽制(けんせい)したものの、その影はきわめて薄かった。
 唯一の超大国の米国に注文はつけても、対決は避けるという戦略に基づいている。経済発展を重視する中国にとって最大の輸出先である米国との関係を悪化させるわけにはいかないからだ。
 しかし、核開発計画を進める北朝鮮に対しては、イラク問題と同様の影の薄い振る舞いは許されないだろう。
 国際社会は、隣国として援助国として密接な関係にある北朝鮮への建設的な影響力を強く期待している。中国には「責任大国」にふさわしい役割が求められていると言えよう。
 国際社会の中国に対するまなざしは、中国が経済を発展させ、存在感を増すにつれて厳しくなっている。新指導部はそのことを銘記すべきである。
 
 
 
 
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