2003/03/06 読売新聞朝刊
[社説]中国全人代 新体制が迫られる「弱者」への配慮
中国の全国人民代表大会(全人代)が開幕した。
任期五年の新しい代表による今大会では、国家と政府の首脳が改選される。昨年十一月の共産党大会で総書記に昇格した胡錦濤氏が国家主席に就任し、温家宝副首相が朱鎔基首相の後任に選ばれ、新体制が発足する予定だ。
任期切れを迎えた朱首相は、最後となる「政府活動報告」で、過去五年間の経済運営の実績を誇る一方、新体制が取り組むべき課題を示した。
アジア金融危機直後の一九九八年春に発足した朱内閣は、積極的な財政政策をとって内需拡大に努め、年平均7.7%という高い成長率を達成した。
市場経済への転換を進め、一昨年末には八〇年代以来の念願だった世界貿易機関(WTO)への加盟を実現させた。
この間、経済発展に不可欠な国有企業や金融体制の改革にも取り組んだ。辣腕(らつわん)の朱氏ならでは、と言われるが、改革は道なかばである。新内閣は一層の改革推進を求められている。
朱報告は、農民の収入が伸びないことや、失業者の増大、腐敗の深刻化などを問題点として挙げた。国民の不満はこうした点に集中しており、すでに失業者らによる抗議デモが頻発している。適切に対処できないならば、社会的安定が損なわれる。
都市と農村の格差は拡大し、WTO加盟に伴う農業への打撃も避けられそうにない。農業の経営近代化や農民の負担軽減といった対策が打ち出されているものの、実現は容易ではない。
国有企業改革の進展に伴ってレイオフ労働者が増大し、都市部の実質的な失業率は7%以上に達している。私営企業を発展させて失業者を吸収する一方、社会保障制度を拡充することが緊急の課題となっている。
清廉な政治家と評される朱首相は、腐敗の一掃にも努めた。にもかかわらず、事態は逆に悪化しつつある。
それは主として権力者・権力機関に対する監視システムを欠く、一党独裁体制が抱える制度的問題だ。
朱報告は、内需拡大で、今年も7%前後の成長を目指すとしている。積極的財政政策は継続されるが、建設国債の発行額は昨年を下回る予定だ。
むしろ、成長の牽引(けんいん)力として消費の拡大に力点を置く方針を打ち出した点が注目される。
胡、温両氏を中心とする新体制は、農民や失業者ら「弱者」により配慮した路線を歩まざるを得ない。だが、その道も決して平坦(へいたん)とはいえないだろう。
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