2003/04/22 読売新聞朝刊
[社説]新型肺炎 感染を広げた中国の隠ぺい体質
感染を拡大させた責任を、中国政府は、一体どう考えているのだろうか。
「患者隠し」の批判が強まる中、中国政府はようやく、新型肺炎(重症急性呼吸器症候群=SARS)の感染者数を、大幅に上方修正した。
首都・北京の感染者数は二十日の発表では、三百四十六人と、従来の公表数の約九倍に膨らみ、死者数も四人から十八人に増えた。驚くべき数字である。
中国政府は同時に、衛生相と北京市長を更迭した。国際社会の批判と不信の高まりに、対応の過ちを認め、厳正に対処する姿勢を内外に示したといえる。
だが、中国内の他の地域で感染が広がっている懸念は依然、消えない。感染症の発祥地でありながら、人命にかかわる重大な情報を隠ぺいする体質が、世界的な感染拡大を招いたことは明らかだ。
胡錦濤国家主席ら新指導部に、一段の情報開示と感染防止対策の徹底を、強く求めたい。
世界保健機関(WHO)が新型肺炎の情報を世界に発信したのは先月中旬、香港で集団発生が報告されてからだ。
その四か月前に中国・広東省で患者が発生していたが、中国は外部になかなか情報を伝えなかった。それどころか今月初旬までWHOの調査さえ拒み、渡航自粛勧告が出された直後には、早々と「安全宣言」まで出す始末だった。
貿易や観光への影響を避けようとしたのだとすれば、考え違いも甚だしい。
人もモノも自由に国境を越えるグローバル時代には病原体も瞬時に広がる。情報の隠ぺいは、最も重要な初期対応を遅らせ、致命的な被害をもたらす。
事実、感染の拡大によって、人とモノの流れは停滞し、世界経済の成長センターである中国をはじめ、アジアの経済が深刻な打撃を受け始めている。
こうした事態が三か月続くだけで中国の経済成長率を0.2%引き下げる、という国際機関の試算もある。情報隠ぺいのツケは、あまりに大きい。
中国は世界貿易機関(WTO)に加盟するなど、国際社会で大国の地位を占めつつある。だが、隠ぺい体質を払拭(ふっしょく)しない限り、「大国」の資格はない。
新型肺炎をめぐっては、台湾が当初、WHOから発生状況などの情報提供を受けられなかった。中国の反対でWHOに加盟していないためだ。
台湾はWHOへのオブザーバー参加を求めている。参加を認め、感染拡大を食い止める国際的な防疫体制確立に、全力を挙げねばならない。
感染症対策に政治的配慮は無用だ。
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