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2002/09/27 読売新聞朝刊
[社説]日中30年 中国は「脅威論」を打ち消せるか
 
 日中両国が国交を樹立した三十年前、中国が今日のように経済大国への道を歩むようになると、誰が予想しただろうか。
 中国は経済力のみならず軍事力や科学技術力などを着実に強化している。人口十三億の大国は、いったいどこへ向かっているのか。それは日本だけでなく国際的な関心事である。
 中国の国家目標は「富強」だ。二〇一〇年の国内総生産(GDP)を、二〇〇〇年の二倍、約二兆ドルに増やすのが当面の目標である。中国経済の伸びは今年も7%台で、このままいけば、十年間で倍増させることも不可能ではない。
 中国の持続的経済発展は地域の平和と繁栄にとって好ましく、経済が混乱し難民が流出する中国は悪夢ではある。
 だが、めざましい経済発展を遂げてきた中国は、今ひとつの曲がり角にある。国民の不満が集中している格差と腐敗の深刻化がそのことを物語っている。
 中国は内陸部の開発や社会保障制度の拡充などによって、地域と所得の格差を縮小しようとしている。しかし、格差は一朝一夕には解消されない。
 また、人民代表大会(議会)の監督権限強化や幹部の公開選抜制導入などで、腐敗問題に対処しようとしている。ただそれらは一党独裁制を前提にした改革であり、おのずから限界がある。
 共産党政権にとって経済の発展こそが支配を正当化するものであり、対外政策も経済発展に奉仕するものと位置づけられている。中国はとりわけ、最大の輸出先でもある米国と良好な関係を維持することに腐心している。
 最大の貿易パートナーである日本との関係も、米国に次いで重視されている。歴史認識や台湾問題で主張は崩さないものの、日本国民の対中感情の悪化に配慮しつつ、経済面などにおける関係の緊密化を図っている。
 しかし、膨張する中国の存在が周辺諸国に脅威感を与えていることも否定できないだろう。
 核ミサイルの増強に加え、軍事費を一九八九年以降、毎年二けたの伸びで増大させ、ロシアから戦闘機を輸入するなど軍の近代化に努めている。こうしたことが、脅威論を高めた要因だ。
 中国は、自国が地域の平和と安定に建設的な役割をはたす国際協調的な責任大国であることを力説し、脅威論の打ち消しに必死である。
 その主張が説得力を持つためには、国防力のいっそうの透明化、台湾へのより自制的な言動など、中国が自らの行動によって脅威論の払拭(ふっしょく)に努めることが不可欠である。
 
 
 
 
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