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2002/11/09 読売新聞朝刊
[社説]中国共産党 「三つの代表論」で生き残れるか
 
 階級政党から“国民政党”への脱皮を図ることで、一党独裁体制を維持できるだろうか。
 人口十三億を率いる中国共産党の五年に一度の全国大会が開幕し、今大会での引退が予想される江沢民総書記は「政治報告」で、党の性格を転換させる新しい方針を明確に打ち出した。
 資本家である私営企業経営者の入党も認め、党の影響力と支持基盤を拡大しよう、というのである。ここには一党独裁の維持と強化を狙う共産党指導部の思惑が込められているといえよう。同時に、私営企業や外資系企業を使って、経済成長をめざす発展戦略もうかがわれる。
 江氏は一昨年以来提唱してきた「三つの代表論」を党の指導思想に据えることで、この方針転換を正当化した。
 共産党は、先進的な生産力、先進的な文化、広範な人民の利益、の三つを代表すべきだ、というのが「三つの代表論」である。労働者階級だけでなく、中国人民全体の前衛だとして、共産党に新たな性格が付与された。
 中国社会は市場経済化が進展する中で多元化、多層化している。党指導部は、一党独裁を続けていくためにも、時代の変化に対応した転換が不可欠だ、と判断したのだろう。
 共産党から私営企業経営者や外資企業管理者らを排除すれば、党外に強力な利益集団を放置することになる。一党支配を揺るがす存在になりかねない、と危惧(きぐ)したのでもあろう。
 脱イデオロギーの改革・開放路線以降の中国は、社会主義の看板を掲げながら、資本主義的な道を歩んできた。今後は共産党の看板を掲げながら、単なる“支配機関”への道を歩むのではないか。
 問題は、新しい方針が党指導部の思惑通り、一党支配の維持につながるかどうかである。
 党に対する国民の不満は、腐敗と格差に集中している。私営企業経営者の入党が権力と金銭の癒着を蔓延(まんえん)させ、腐敗をより深刻化させるとの見方もある。
 持たざる者ではなく、持てる者のための党への変質を促すだろう、との意見も少なくない。
 もっとも、実体としての中国共産党はすでに一般の農民や労働者の党ではなく管理者や専門技術者の党であり、比較的豊かな高学歴エリートの党になっているとも指摘されている。
 腐敗の解消や格差の是正には、大胆な政治改革が不可欠であり、党員からもそうした改革を求める声が上がっている。「三つの代表論」に政治改革への指針を求めるのは無理といえよう。
 
 
 
 
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