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2002/09/25 読売新聞朝刊
[社説]日中30年 経済摩擦をどう乗り越えるか
 
 国交回復から三十年、日中経済関係の拡大は目覚ましい。
 両国間の貿易額は、世界経済の低迷の中でも伸び続け、昨年は八百七十七億ドルと過去最高を更新した。国交回復の年、一九七二年の八十倍である。
 日本にとって中国は、米国に次ぐ第二の貿易相手国であり、中国にとって日本は、最大の相手国だ。
 日本企業による中国での工場建設など直接投資も、急速に伸びている。累計額はすでに三百億ドルを超え、九九年度末の段階で進出企業は千四百社、年間売上高は四兆円を超えた。
 量的な拡大とともに、質的な深化も進んでいる。進出業種は、当初の繊維加工など労働集約型から、家電、さらに情報技術(IT)関連、自動車など資本集約型の有力企業に中心が移りつつある。生産拠点だけでなく、研究・開発拠点を中国に置こうとする企業も出始めた。
 だが、日中経済関係が、これからも順調に拡大・深化を続けられるのか。障害となるさまざまな問題に対して、日中双方が解決の努力を重ねる必要がある。
 貿易額は確かに増えているが、その内実をみると、八〇年代末以来、中国の対日黒字が膨らむ形で、貿易不均衡が拡大を続けている。
 中国産の繊維製品や農産品などの対日輸出急増が、不均衡の拡大を加速する要因となり、影響を受けた業界から輸入規制を求める声が上がっている。中国企業による日本のオートバイ、CDなどを模倣した製品の氾濫(はんらん)も、損害を被った日本企業との間で摩擦を生んでいる。
 こうした問題を放置したままでは、通商関係は、拡大・深化どころか、対立と混乱の淵(ふち)に沈む事になりかねない。
 個別の案件については、すでに官民の対応が始まっているが、問題を包括的に協議し解決していく枠組みが必要だ。
 中国経済自体も、決して順風満帆ではない。外資系企業が先導する活況の裏で赤字国有企業の整理が遅れ、所得格差や地域格差が広がり、失業者の急増、財政赤字膨張などが深刻化している。
 国内経済の混乱に発展するような事態になれば、直接投資、工場進出を続ける日本企業が打撃を受ける恐れもある。
 企業経営者には、従来以上に慎重で的確な分析をもとに、投資の是非を含めた判断が求められる。
 来月から、経済・通商関係の次官級による「日中経済パートナーシップ協議」が始まる。この協議を“友好”という建前のみを語る場でなく、両国の経済関係の諸問題を本音で語り、解決する場の一つにしなければならない。
 
 
 
 
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