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2002/05/23 読売新聞朝刊
[社説]瀋陽亡命事件 人権は守られたが主権はまだだ
 
 最悪の事態だけは回避されたことは、よしとしなければならないだろう。
 亡命を求めて、中国・瀋陽の日本総領事館に駆け込み、中国武装警察に連行された五人の北朝鮮国民を、中国政府はフィリピンへ移送した。最終的な落ち着き先は、韓国と見られている。
 北朝鮮に送還された場合、五人が厳罰を受けるのは必至と見られていた。米国や韓国が、そうした事態に強い懸念を示したこともあり、北朝鮮と友好関係にある中国も、人道的配慮を優先せざるを得なかったと言ってよい。
 その意味では、国際社会の有形、無形の圧力が功を奏し、五人の人権は、何とか守られたことになる。
 しかし、だからと言って、中国による日本の「主権侵害」という事実までが、消えたわけではない。
 中国警察の行動が、領事関係公館の不可侵を定めた「ウィーン条約」に違反していることは明らかだ。日本政府も、立ち入りに同意した事実はない、との調査結果に基づき、中国に陳謝などを求めている。当然のことである。
 これに対し、中国側は「同意を得た」とする主張を変えていない。本質的な部分が未解決である以上、日本政府は、引き続き中国政府に対応を促していくべきである。問題を曖昧(あいまい)にするようなことがあってはならない。
 今回の事件で、在外公館の対応や職員の意識、そして出先を指示すべき立場にある外務本省の危機管理のあり方など、様々な問題が浮き彫りとなった。
 北京で、北朝鮮国民による亡命事件が増えているにもかかわらず、どこまで認識していたのか。外務省の調査が、総領事館員に「緊急事態への意識の希薄さがある」と指摘しているほどだ。
 出先の初動のまずさと連絡の不備に加え、本省も的確に対応したとはとても言えない。外務省の体制に根ざした欠陥であり、看過するわけにはいかない。
 調査自体にも漏れがあり、それが中国や民主党の調査で、明らかにされる始末だった。事実関係を把握していながら、事なかれ主義で隠蔽(いんぺい)していたとしたら、ゆゆしいことである。
 川口外相は、本省と在外を通し、体制の見直しを急ぐとともに、職員の意識改革を徹底させなければならない。
 難民や亡命への対応も大きな課題だ。難民認定法により、国内での対応はできるが、在外公館については、法的規定はもちろん、対処方針すらない。政府・与党内には、整備を求める声がある。本格的な検討に着手する時である。
 
 
 
 
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