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2001/07/07 読売新聞朝刊
[社説]防衛白書 中国の軍事力増強を懸念する
 
 日本の周辺地域の軍事情勢は急速に変化している。
 それを正しく把握することが地域の平和と安定を維持するための第一歩だ。
 今年の防衛白書は、アジア太平洋地域の軍事情勢、とくに中国の分析に力点を置いている。
 中国の動向が日本の安全保障に大きな影響を及ぼす以上、当然である。
 中国の国防費は、十三年連続して10%以上の伸び率を記録している。今年度は17%増と、ここ数年で最高の水準だ。
 中国の軍事力増強が今後も続けば、東アジア地域の軍事バランスに大きな影響を与えかねない。
 中台関係は朝鮮半島と並んで東アジアにおける最大の不安定要因でもある。
 日本にとっては、中国海軍が活動範囲を広げ、日本周辺の海域で活発に情報収集活動などを行っていることも、見過ごしにできない。
 従来は中国を刺激しないという外交上の配慮もあってか、中国に関する白書の記述は質量ともに不十分だった。
 そうした姿勢を続けていては、安保・防衛の現状を国民に伝える白書の役割は果たせない。中国にも誤ったメッセージを送る恐れがある。
 遅ればせながら、防衛庁の姿勢の変化は歓迎できる。
 白書は、これまで「若干基保有する」とあいまいだった中国の大陸間弾道ミサイル(ICBM)について、「約二十基保有」と初めて数を明示した。
 日本を含むアジア地域を射程に収める中距離弾道ミサイルの保有数については前年の白書では約七十基だったが、今回は約百基に増えたとしている。
 中国は、陸海空三軍の近代化を進めている。特に「ハイテク条件下の局地戦」の対応能力向上を最大の課題とし、技術革新の取り込みに力を入れている。
 白書は、これらの点を指摘したうえ、「近代化の目標が中国の防衛に必要な範囲を超えるものではないのか、慎重に判断されるべきだ」と警戒感を示した。
 日本は中国に巨額の政府開発援助(ODA)を実施している。国内には、このように軍事力増強を続ける中国への援助継続に、批判的な声が強い。
 中国のこれまでの国防白書では、三軍の組織、編成などが極めてあいまいだった。保有兵器の数量や装備の調達計画などにも触れていなかった。
 信頼関係の構築には、情報の公開が不可欠だ。日本政府は、日中の安保対話などの機会を通じて、中国側に懸念を伝え、国防政策と軍事力の透明度を高めるよう強く求める必要がある。
 
 
 
 
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