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2001/05/19 読売新聞朝刊
[社説]通商白書 中国経済の台頭に注目したい
 
 中国経済の急激な台頭で、大競争時代が始まった――。
 それが、二〇〇一年版通商白書の描く、現在の東アジアの産業・貿易の姿である。
 東アジアの産業・貿易は、これまで、日本を先頭に、韓国など新興工業国・地域群(NIES)、続いてタイなど東南アジア諸国連合(ASEAN)諸国、さらに遅れて中国、という、いわゆる雁行(がんこう)型の発展を続けてきた。
 それが、ここ数年で崩れた。各国の産業の発展段階による明確な棲み分け(すみわけ)がなくなり、労働集約型の産業から技術集約型の産業まで、幅広い分野で各国が、しのぎを削る形になりつつある。
 日本国内には、こうした厳しい現実に対する認識がまだ足りない。
 冷静に日本の置かれた立場を認識し、大競争を生き抜き、日本経済の再生の原動力にしていくためにも、不良債権の最終処理、構造改革に全力をあげ、国際競争力の回復を急がねばならない。
 最近の中国の台頭は目覚ましい。八〇年代後半から繊維産業で、九〇年代半ばからは情報関連はじめ機械産業の分野などでも、急速に国際競争力をつけた。十年間で輸出を四倍に増やし、世界で十指に入る輸出大国になっている。
 九〇年代を通じて年平均約10%の高い経済成長を記録し、名目国内総生産額は九八年現在で米日欧の主要先進国に次ぐ世界第七位を占めた。今年に入っても、年率8%台の成長を続けている。
 白書によれば、成長の大きな力は、欧米や東アジア諸国からの、年間四百億ドル前後にのぼる活発な直接投資だ。
 中国政府による投資環境の整備、良質で安く、豊富な労働力などに着目して、各分野の有力外資系企業が相次いで進出している。地場企業も部品工場を充実させ、整備された環境がさらに海外からの直接投資を促す好循環を生んでいる。
 これに対して、日本経済はどうか。
 十年にわたる景気低迷を続け、海外からの直接投資は中国の四分の一以下、貿易黒字も減少傾向をみせ始めた。
 政府は「e―Japan戦略」を策定し、IT(情報技術)革命を経済再生の突破口にしようとしている。だが、政府自身の業務のIT化から人材育成、民間企業の経営革新などへのIT活用をはじめ多くの分野で、米欧はもちろん、東アジアNIESにも後れをとっている。
 中国はじめ、この地域の国々すべてを「日本が援助し、手本を示すべき国」として対応する時代では、もはやない。巨額の直接投資を海外から引き込み、自国経済の革新と成長の力にする中国のたくましさに、改めて注目したい。
 
 
 
 
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