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1989/02/27 読売新聞朝刊
[社説]中国・インドネシア和解に道つけた東京会談
 
 スハルト・インドネシア大統領と銭其チン・中国外相が東京での会談で、関係正常化交渉開始の合意をみた。
 インドネシア史を揺るがした事件に九・三〇事件がある。六五年九月三十日のクーデター未遂事件だ。当時のスハルト少将が鎮圧したが、数十万人の死者が出た。
 中国が東南アジアの共産党や反政府共産ゲリラを支援した時代の不幸な事件だ。この事件を経て、スハルト現体制が生まれた。六七年に、スハルト政権は事件を起こしたのが中国系共産党で、中国が関与していたとして、中国との国交を凍結した。
 以来、何度か、関係正常化が模索された。が、反華僑暴動の発生など、インドネシア側の事情で、先送りとなってきた。
 インドネシアを支配する軍部内に中国を脅威とみる根強い対中不信感があったからでもある。スハルト氏自身、中国の長期的意図に疑念を持っていたとされる。
 大喪の礼は、中国の外相がそのスハルト氏に直接会える機会を提供したわけだ。
 東京会談の成功は、輸出拡大のため中国市場をにらみ、また、非同盟世界の指導者として外交の幅を広げたいインドネシアと、東南アジア諸国との関係拡大をはかる中国の思惑が重なったせいもあろう。
 両国が復交すれば、シンガポールと中国との国交の道も開けよう。中国系住民の多いシンガポールは、“東南アジアの中国”と見られるのを恐れ、東南アジア諸国連合(ASEAN)では、中国と国交を結ぶ最後の国となると公約してきた。
 中国とインドネシアの復交の動きは、中ソ和解の動きがアジアに促している多角的な関係調整の一環でもある。
 インドネシアと同様、中国の脅威に敏感なベトナムと中国の直接対話がすでに実現し、カンボジア解決と並行して、両国が関係修復に向かえば、この地域の大国と自負するインドネシアが中国との関係を凍結したままでは、不自然だ。
 中国はすでに、現実外交に転じ、この地域の共産勢力との関係よりは、国家関係を優先させている。内政不干渉を含む平和五原則の厳格順守など対ASEAN四原則を明らかにしてもいる。
 中国系住民が四百万人というインドネシアには、中国に糸を引かれるのがこわいと言えるが、東京会談で、銭外相はスハルト氏に内政不干渉を保証したはずだ。
 私たちは両国の和解がアジアの安定に寄与するものと歓迎したい。
 ベトナムとパイプを持つインドネシアと、カンボジアの反ベトナム三派に影響力を持つ中国の間に、もう一つのパイプができれば、カンボジア解決をはかるうえでも好ましいだろう。
 中ソの和解で、東南アジアと域外との関係はますます多角化し、特に、日米中ソとの関係が交錯してくる。域外諸国はこの地域の安定を旨とすべきだ。その行動を誤ってはなるまい。
 わが国も、この地域に共存共栄の構図を定着させるための努力を一層、強めることが必要だろう。
 
 
 
 
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