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1988/10/04 読売新聞朝刊
[社説]調整期に入った中国経済改革
 
 中国の経済改革が新たな調整期に入った。先週開かれた中国共産党中央委員会総会は、八九、九〇年の二年間の重点を経済環境の整備と経済秩序の整とんに置くことを決め、引き締め色の強い方針を打ち出した。
 経済改革のカギである価格・賃金改革については、今後五年以上の時間をかけて、一歩一歩実施するよう提言し、来年の価格改革の歩みは比較的小さなものにするという。
 インフレ抑制を最優先させ、価格改革は足踏みということになる。初夏のころまで、リスクをおかしてでも価格・賃金改革を改革の軸に据えようとしてきた趙紫陽・党総書記の積極改革路線が後退し、李鵬首相らの漸進改革路線が前面に出てきた形である。
 背景には、景気の過熱とインフレの高進がある。昨年の工業生産が前年比一四・五%だったのに対し、今年上半期のそれは一七・二%に達した。しかも、冷蔵庫など耐久消費財の伸びが著しく、原材料、エネルギー生産の停滞、不振が目立ついびつな成長であり、混乱が生じ、インフレ要因ともなっている。総供給が総需要に相応しない構造がある。
 価格改革の一環として、五月には食肉、卵、砂糖などの副食品が三〇―六〇%引き上げられ、七月にはブランドものの酒、たばこの価格が自由化された。これも引き金となって、他の部門にも値上げが波及し、インフレを加速させた。
 昨年の物価上昇率は前年比七・三%だったが、今年の上半期は前年同期比一三%と、史上最高となり、その後も騰勢が続いた。
 このため、買いだめ、売りおしみのパニック現象が生まれ、銀行の取りつけ騒ぎが続発した。また、賃上げ要求の千人規模のストライキがすでに二百件も起きたという。
 こうした状況がデモや暴動となって現れる危険を未然に防止する必要があることは言うまでもない。党がインフレ抑制最優先を打ち出したことはうなずけるところだろう。
 エネルギー、原材料部門を除く設備投資や建設工事の抑制、通貨の膨張抑制策がとられるが、当面の課題は、景気の引き締めが、不景気とインフレが同居するスタグフレーションを招くことのないよう、そのかじとりを誤らないことだろう。経済運営の責任を任されたともいわれる李首相ら安定成長派の腕のみせどころでもある。
 李首相は先に、日中経済協会訪中団に、今回の調整が八〇年のそれとは違うと述べている。八〇年の調整は宝山製鉄第二期工事の一方的延期など、日中経済協力を混乱させた。李首相の発言通り、そうした混乱が引き起こされないよう、キメの細かい政策の展開が望まれる。
 問題は、中国指導部の政策論争がそれにとどまらず、トウ小平以後をにらんでの権力闘争にからみ、政局を動揺させる懸念が一部でとりざたされていることである。われわれは十年来の改革・開放が後戻りできないと考えるし、そのような懸念が杞憂(きゆう)に終わることを信じたい。
 公有制主体の経済に市場メカニズムを導入して、経済の活性化と生産力の拡大を図る中国の実験の難しさがあるが、基本的には、価格・賃金改革は避けて通れない関門だ。中国が現在の困難を克服して、改革を前進させる局面に移ることを期待する。
 
 
 
 
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