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1988/08/18 読売新聞朝刊
[社説]アジアを変える日中経済協力
 
 中国がアジア経済圏との関係を強化し、太平洋沿いにベルト状に連なる沿海対外開放区が「NIES(新興工業国・地域群)化」する動きに期待が集まっている。
 中国の開放政策は再び高揚期に入り、「国際大循環」発展戦略などで、外国企業の誘致や輸出拡大を、経済政策に大胆に組み込もうとしている。一方、先進国の保護貿易主義、特に対米貿易摩擦の打開を図る日本、韓国、台湾などがアジア圏での貿易や投資の拡大を重視し始めている。息の長い話だが、二つの動きが重なり、中国とアジア市場の交流に弾みがつくのではないか。
 日本は中国市場に対する将来展望を持って、対外経済政策を考える必要がある。それだけに、二十五日からの竹下首相の訪中は、極めて重要な意味を持っていると思う。
 首相は、中国の国内開発を後押しするため、約八千億円にのぼる第三次円借款(九〇―九五年度)の供与を表明する。さらに、日本企業の直接投資を進めるテコになる日中投資保護協定に調印する。政府および民間ベースの対中協力は、アジアで始まった経済構造改革の新しいうねりに役立とう。
 中国は、日本の政府開発援助(ODA)で最も重要な国だ。中国が七八年に対外開放政策を打ち出したのを受け、近代化を支援するため、日本の対中援助が始まった。最近数年間の累計では、中国が二国間援助のトップで、援助全体の一五%を占めている。中国が受け入れている援助のうち、七割もが日本からである。
 中国は経済改革のヤマ場にある。ことにインフレを乗り切り、物価政策で成功するかどうかが、改革の試金石になっている。また、対外債務が多額にのぼる中で、どうやって外国資本を導入するかも課題である。
 中国では鉄道、港湾、電力、通信、上下水道などのインフラストラクチャー(社会的な生産基盤)が不足し、経済拡大の足カセになっている。こうした時期に決まる大規模な円借款は歓迎されよう。日本からの経済協力がこれらの分野を対象にしているからだ。また、輸出産業を育成するため、青島輸出加工区などの建設協力も進んでおり、「沿海発展戦略」を支援する形になっている。
 投資保護協定は、中国への投資や合弁生産を進める上での障害を取り除き、内国民待遇を日本企業に与えることを評価したい。社会体制の違う中国に戸惑い、さらに外国企業が人件費、原材料購入、輸出義務などで不利な扱いをうけているため、中国進出に二の足を踏んでいる企業が少なくないからだ。
 しかし、日中協力の重要問題は、第一に、対外開放政策の継続である。開放政策が過熱した反動で、過去、二回の調整期があり、プロジェクトや輸入の契約破棄や交渉中断が相次いだ。そういう苦い経験があるため、日本企業は資本や技術をどの程度の規模で提供したらよいのかに不安を持っている。
 第二に、アジア市場では、日本をNIESが、NIESをタイ、マレーシアなど東南アジア諸国連合(ASEAN)が追っている。中国が輸出型産業を育成して行くと、製品の販路を求め、輸出市場の争奪戦が激化する。繊維などの軽工業で、すでにこうした現象が起きているが、アジアでの相互依存関係の交通整理が必要な時期にきていると思う。
 
 
 
 
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