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1987/09/29 読売新聞朝刊
[社説]日中国交正常化15周年の課題
 
 日中共同声明により、両国の国交が正常化されてから、二十九日で十五年になる。
 この十五年の日中関係は、全体として順調に推移したと言える。昨年の日中貿易額は七二年の十四倍に達した。人的交流も四十倍という増え方を見せている。
 だが、日中友好の基盤をためすかのように、さまざまな摩擦、不協和音が生じてきたのも現実である。摩擦の多くは、中国側の対日不満、対日批判の形をとっている。
 この十五年間に、中国は文化大革命末期から、天安門事件、四人組追放を経て、改革・開放のトウ・胡体制の確立、そして、さる一月の胡耀邦氏の党総書記辞任と激動を続けた。対外的にも、七〇年代の反ソ統一戦線路線から、八〇年代の全方位外交に転じた。
 これに応じて、中国側からみると、日中関係は、反ソ統一戦線の一角としての位置づけから、近代化路線に組み込んでの長期的、地政学的視野からとらえられることになる。
 同時に、香港、マカオの復帰日程を確定した中国にとって、台湾の統一が次の課題となっている。
 日中友好の基本的枠組みのなかで、中国側が提起するさまざまな問題は、こうした背景を踏まえてとらえるべきだろう。
 防衛費一%枠突破などにからむいわゆる日本の軍国主義傾向についての中国側の懸念表明は、過去の不幸な歴史に由来する地政学的な対日脅威感を示している。
 だが、中国が真に日本の軍国主義傾向を懸念しているとすれば、それは、情報不足か、偏向情報による誤解と言わざるを得ない。
 日本が他国に脅威を与えるような軍事大国になる要因は構造的にもない。日本側は過去の歴史の反省の上に立ち、この誤解を解く努力を続けるべきだが、中国側も今日の日本の現実をとくと見てほしいものである。
 光華寮問題は難問だが、「一つの中国」が日本の国家意思であることは、日本側が繰り返し明らかにしているところである。
 この問題の背景に、日台経済関係の急発展に対する中国側のいらだちがあることは否めない。八六年の日本の対台湾投資は、台湾への外国投資の第一位であり、対中国投資を上回っている。
 日中間にはまた、改善されつつあるとはいえ、貿易不均衡の問題がある。最近では、ココム違反の東芝機械に対する対共産圏輸出禁止処分に伴い、同社の対中国輸出既契約分の履行問題が出ている。
 投資や貿易不均衡の問題については、日本側の建設的対応が求められるが、中国側の事情による面も多くある。中国側の投資環境整備への努力を期待したい。
 東芝機械問題は、中国側に責任はなく、日本側は早急に手を打つ必要がある。
 日中友好が相互の利益にかなうだけでなく、この地域の平和と安定にとって、不可欠であることは明らかである。個々の摩擦に耐え得る対等で成熟した日中関係の構築が必要であることは言うまでもない。
 求められるのは、体制の違いに目をつむることなく、体制の違いを常に意識して、理解と友好を深める相互の努力である。
 冷静で率直な対話を重ねたい。感情的な反発や、逆におもねりは、日中関係の将来を誤らせ、損なう。
 
 
 
 
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